(『天然生活』2024年9月号掲載)
料理家・飛田和緒さんに聞く、家事が楽しくなる道具
仕事柄、国内外問わず多くの台所道具を使いこなしてきた飛田さんですが、やはり手になじむのは日本生まれのものだそう。たとえばずっと使いつづけている行平鍋。
「日本の家庭料理は、どうしても、煮たりゆでたりの作業が多くなるので、お鍋も、ある程度の数が必要になります。一般的なお鍋だと収納に頭を悩ませるけれど、入れ子状の行平鍋なら、たくさん持てます。多くの鍋を、家庭でも無理なく持てること。それが結局、私の料理と暮らし方に合うということなのでしょう」

家事を楽しくするコツは、気に入った道具を見つけて使い込むこと。「お気に入りを探す工程は、自分の暮らしをもう一度見つめ直すことにつながる気がします」
葉ものをさっとゆがく。根菜を下ゆでする。下ごしらえした素材を煮込んで味をふくませる。ていねいな手順を重ね、完成する料理の数々。鍋は、コンロとシンクを行ったり来たりします。
「とくに仕事のときは大量の料理をつくりますから、重たい鍋ではとても大変。軽いアルミ製だからこそ、苦もなくできるんですよね」
ちなみにこの鍋、ときにボウルとしても活躍します。
「道具ってね、使っているうちに、ふと違う使い方になるときがあるんですよ。手に入れたときに、『こんなふうにも、あんなふうにも使えそう』なんて考えていなくても、本当にパッと無意識に、お箸を逆さにして麺をさばいていたりね」
飛田さんの愛用道具と使い方5選
愛用道具と使い方1
行平鍋で炒めたり焼いたり

アルミ製のいいところは、軽さと熱伝導の高さ。すぐにお湯が沸き、料理がスムーズになる
柄がないので、コンロの上にいくつか並べても場所をとりません。行平鍋というと、ゆでる、煮るのイメージですが、飛田さんは焼く、炒めるにも活用しています。
「ステーキなどはさすがにフライパンですが、野菜炒めや焼きそばは行平でつくります。注ぎ口がないものは、蒸し板と合わせれば大きなせいろも載せられて便利です」

持ち運びは、安定してしっかりつかめる「やっとこ」を使って

手前の鍋は古びた木製の柄だけを取り外してもらい、40年近く愛用

アルミ矢床鍋 21cm ※そのほかのサイズ 12cmから3cm刻みで30cmまで/鍛金工房WESTSIDE33
愛用道具と使い方2
ころも箸で麺をゆがく

太さがあるころも箸の頭の部分を使ったら、麺をつかむのにぴったり
菜箸や盛りつけ箸として愛用しているのは、市原平兵衞商店のお箸。
「一般的なものより先が細く、豆やせん切りの野菜などもスッとつかめます」
天ぷらの衣を混ぜるためのころも箸は、ある日、別の使い方をひらめきました。
「麺を引き上げたりするには、太いほうがつかみやすいんです。ふと上下を持ち替えたら、ちょうどよくて」

菜箸や盛りつけ箸の頭は、辛子などをぬりつけるのに便利な形状

ころも箸 長さ30cm 販売終了/御箸司 市原平兵衞商店
〈撮影/星 亘 取材・文/福山雅美〉
飛田和緒(ひだ・かずを)
神奈川県三浦半島の海辺の町で暮らす。娘が大学進学のため独立し、夫とふたり暮らしに。旬の食材をシンプルに料理する、気取りのない家庭料理のレシピが人気。『おいしい朝の記憶』『くりかえし料理』(ともに扶桑社)など著書多数。SNSでも日々のごはんや暮らしぶりを発信。
インスタグラム@hida_kazuo
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです