山形県長町・地域密着型のスーパ「エンドー」
小さなスーパーの、大きな底力
山形に一泊し、午後には東京へ戻らないといけない。
短い滞在のなかで、「ここだけは寄って帰りたい」と思わせる場所がある。
長町にある、地域密着型のスーパー「エンドー」だ。
創業は昭和40年。


もともとは八百屋としてスタートし、ずっと地元の暮らしを支えてきた。
近くに大型スーパーができ、客足が途絶えそうになった時期もあったという。
閉店の二文字が頭をよぎった。
そんなエンドーを救ったのが、山形の人々がこよなく愛する「げそ天」である。
“げそ”とはイカの足のこと。
それを天ぷらにしたげそ天は、山形市や村山地方のソウルフード。
そばやラーメンの横にさりげなく添えられる、いわば脇役の存在だった。
エンドーはその脇役を、思いきって「主役」に据えてみせた。
店頭では、味を選び、サイズを選び、紙に書いて注文する、この昔ながらのやり取りが残る光景は、なんともあたたかい。



厨房では白衣姿のご家族やスタッフが次々とげそを揚げていく。
揚がったそばからマイナス40℃の超冷風で急速冷凍し、おいしさを閉じ込めた「冷凍げそ天」は、今や帰省土産・贈りものの定番になった。

私もこの後に仕事があり、差し入れ用に購入した。
オンラインショップはあるけれども、東京では販売していない、その土地で生まれ、そこで愛されてきた味を、自分の手で選んで持ち帰る楽しさは、旅ならではの特権だと思う。
そして厨房の上に掲げられたメニュー、ケースに並ぶ魚、そしてそばにずらりと並んだお惣菜の数々。


どれも魅力的で、なかでも東北ならではの菊の和えものの鮮やかさには思わず手が伸びた。
ほんのりと立つ菊花の香り、シャクっとした歯触り「ああ、やっぱり好きだな」としみじみ思う。
店内の奥には、ドリンクのショーケースがあり、楯の川酒造の“BARヨー子”シリーズがずらりと。
柚子、すもも、ヤマソーヴィニオン、レモン......。

瓶の向こうに、山形の四季が揺れて見える。
角打ち好きとしては、ここで一杯いきたい気持ちを抑えるのが難しい。
せっかくなので、げそ天とレモンサワーをその場でいただいた。

揚げたてのげそ天は衣が軽く、芯にやさしい旨味がある。
ザクッと噛むたびに土地の気配がふわっと立ち上がり、レモンサワーをごくりと飲むと、身体のなかまで晴れわたっていくようだった。
この“日常の特別感”こそ、エンドーの底力なのだろう。
ふと店内を見渡すと、買い物かごを持つ地元のお母さんやふらりと飲みにくるおじいさん(笑)、温泉巡りの途中だという外国人観光客、おしゃれなカメラを片手にした日本人の若い旅人など、じつにさまざまな客層が集っていた。
「どうしてもここに来たかったんです」と笑う人もいる。
土地に根ざしたローカルスーパーが、いまや“感度の高い人々が通う旅の目的地”になっていることがうれしかった。

店主の遠藤さんは、店の歴史を話しながら「ここはね、地域の食卓を守る場所なんです」と穏やかに笑い、その横顔には、静かな誇りとやさしい温度がにじんでいた。
帰り際、げそ天とすじこのおむすび弁当を買い、新幹線に乗り込む。

おむすびの塩気とお米の甘さを噛みしめながら、車窓に流れる山形の景色をぼんやり眺める。
次はもっとゆっくり時間をつくって、エンドーで角打ちをしたいと思った。
小さなスーパーが守りつづける味には、土地の暮らしの記憶がぎゅっと詰まっている。
* * *
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真藤舞衣子(しんどう・まいこ)
料理家。発酵研究家。会社勤務を経て、1年間京都の禅寺で生活。フランスへ料理留学後、料理教室を主宰するほか、雑誌や書籍で活躍。著書に『つくりおき発酵野菜のアレンジごはん』(主婦と生活社)、『サバの味噌煮は、ワインがすすむ』(日本経済新聞出版、小泉武夫氏と共著)など。
インスタグラム@maikodeluxe

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