(『天然生活』2025年5月号掲載)
訪ねたところ:紙漉キハタノ
アーティストで和紙職人のハタノワタルさんが主宰する、京都府綾部市の和紙工房。和紙の原料づくりから紙漉き、和紙を使った工芸品や建材の制作販売のほか、和紙空間の設計や施工も手掛ける。
ずっと続いてきたものが未来にも続くように
京都府綾部市黒谷町、自然豊かな山里に構える「紙漉キハタノ」。平澤さんはハタノさんに和紙づくりの現場を案内してもらうことに。

工房で和紙づくりを見せてもらったあと、加工室に。和紙の人気アイテム「敷板」の製造工程を拝見。「色に表情があるのは何色も重ねているからなんですね」(平澤さん)
ハタノさんと黒谷和紙との接点は、いまから30年ほど前。東京の美大時代、油絵を描くための素材として出合いました。
「和紙に描いてみたらなんだか調子がよくて。それが黒谷和紙だったんです。あのときは、日本の紙に描けるんだというだけですごくテンションが上がっちゃって」と振り返ります。
「でも、それで生産する側になるって、やっぱりすごい」(平澤さん)
使う側からつくる側へ。しかも暮らし方を変えてまで臨むのは、たしかに相当な決心が必要なはず。
「アートをやっていて、自分のやりたいことってなんだろう、持続可能な社会をどうやって表現していこう、と考えたんです。そのときに、昔からやっていることをいまやって未来につなげていけば、持続可能につながるだろうって」
ハタノさんからすると、それは田舎で暮らすことも同じ。なぜなら、黒谷という小さい町での暮らしは、昔からのシステムでできている暮らしそのものだからです。
「昔から続いてきたものはたぶんいいから続いてきたわけで、それを未来に残すということだけに集中しようと思ったんです」
伝統の和紙で現代の暮らしを心地よく
黒谷和紙の世界に飛び込み、和紙づくりを体得したハタノさんが次に着手したのは、和紙の魅力を発信すること。それは、需要があってこそ初めて、紙漉きの文化が続いていくと実感したからです。
水に強く退色しにくい加工を施すことで用途を広げ、食器にもなるプレートをつくったり、大事なものを保管する紙箱をつくったり。紙漉きの伝統製法はきっちり守りつつ、現代にもなじむプロダクトや使い方をさまざまに提案。

ハタノさんも日常使いする「敷板」。「料理にはお皿と同じように使えます」

いまでは工芸品に限らず、テーブルやキッチンの和紙加工をはじめ、壁や天井に和紙を用いた空間の設計・施工なども担うようになり、飲食店やギャラリー、ホテルなど、国内外からオーダーが入ります。

和紙加工したアトリエ内のキッチン。水ぶきもできる
「和紙は基本的には何にでも貼れて、破れたら貼り直せる。長く使っていけるものをつくれるんです」
帰り際、壁や家具に和紙が施されたハタノさんのアトリエに案内してもらった平澤さんは、「とても心地いい」とくつろぎながら「こういう和紙の空間を体感する機会が増えていったら、きっとさらに注目されますね」と微笑みます。
「たとえば、日本の標準は和紙の壁、というくらいになっていったらいいなって思います。そう、だから、全国の和紙職人さん、一緒にがんばろうといいたいですね」

紙箱も人気。平澤さんは名刺入れとして愛用。「大切なものを守ってもらえるような安心感があります」

ハタノさんの和紙を使い「手々」さんが制作しているプレート
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〈撮影/辻本しんこ 取材・文/山形恭子〉
平澤まりこ(ひらさわ・まりこ)
イラストレーター、版画家。広告や書籍、パッケージのイラストレーションのほか、近年は和紙を使った描版画という独自の手法を用いた版画作品の制作に取り組む。作品集に『いつかの森』(求龍堂)、著書に『旅とデザート、ときどきおやつ』(河出書房新社)、『ミ・ト・ン』(幻冬舎文庫、小川糸氏との共著)などがある。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです




