• 生きづらさを抱えながら、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていた咲セリさん。不治の病を抱える1匹の猫と出会い、その人生が少しずつ、変化していきます。生きづらい世界のなかで、猫が教えてくれたこと。猫と人がともに支えあって生きる、ひとつの物語が始まります。今回は「よく鳴く猫=おしゃべり猫」のお話です。

    よく鳴く猫は困った子? おしゃべり猫との付き合い方

    3年前に我が家へやってきたママ猫「ヨナ」の名前の由来は、「よく鳴く」です。

    そのままです。もう少ししゃれた由来があってもよかったのですが、とにかく、よう鳴くので仕方ありません。

    朝も鳴く。昼も鳴く。夜も鳴く。

    なんなら、「あ、いまちょっと静かだな」と思ったあと、急に思い出したように鳴きます。

    しかも声量がすごい。「ニャー」というより、「アアーーーーー!」です。肺活量が、完全にオペラ歌手。

    画像: オペラ歌手は体型もばっちり

    オペラ歌手は体型もばっちり

    最初は心配しました。

    外へ出たいのかな。家のあちこちにいる子猫を探しているのかな。どこか痛いのかな。いろいろ考えました。けれど、どうもそういう感じでもないのです。

    画像: 保護したばかりのヨナ。やはり鳴き通し

    保護したばかりのヨナ。やはり鳴き通し

    ごはんは食べる。眠る。甘える。そして急に鳴く。本当に、「あ、そうだ、鳴いておきますか」くらいの自然さで始まります。

    しかもヨナ、自分で満足したら急に終わります。こちらだけが、「いまの何だったんだろう......」となります。

    そんなヨナを見ていると、昔いた、「まめ」のことを思い出します。ふくふくした小柄な黒猫の、まめ。まめも、それはそれは、「よく鳴く子」でした。

    夜中にずっと鳴いてしまい、里親さんが眠れなくなってしまったのです。

    たくさん悩んでくださった末、まめはわが家へ戻ってきました。

    あのころのまめは、本当に、おもしろい声で鳴いていました。

    「モーーーーーン!」みたいな声。

    画像: 保護したばかりの、まめ。鳴き通し

    保護したばかりの、まめ。鳴き通し

    しかも、びっくりするくらい響きます。

    こちらとしては、「その小さい体のどこに、そんな声量をしまっているの」と思います。猫というより、非常ベルでした。

    もちろん最初は、「何か理由があるのかな」と考えました。さびしいのでは? 不安なのでは? 環境に慣れないのでは? でも、一緒に暮らしているうちに、少し考えが変わってきました。

    鳴くことそのものが、その子の“しゃべり方”なのかもしれないと。

    画像: まめ、遊ぶときも鳴きながら

    まめ、遊ぶときも鳴きながら

    静かな子もいます。気配だけで暮らしているみたいな子。逆に、「ちょっと聞いて」「いまここ」「なんか言いたい」を、全部声で伝える子もいます。

    人間と少し似ています。静かな人もいれば、しゃべっているほうが安心する人もいる。ヨナやまめは、たぶん後者なのでしょう。

    実際、まめは不思議なことに、3年くらいたったころから、少しずつ静かになっていきました。

    画像: リラックスしたまめ

    リラックスしたまめ

    何がきっかけだったのかは、いまでも分かりません。安心したのか。歳を重ねたのか。「もう言いたいこと、だいたい伝わった」と思ったのか。理由はわからないままです。

    ただ、ある日ふと、「あれ、近頃あまり鳴かないね」と気づいたのです。

    だから最近は、ヨナが昼間から急にオペラを始めても、「今日も絶好調だねえ」と思うようになりました。

    もちろん、夜中はちょっと眠いです。

    昼間も、文章を書いている横で熱唱されると、なかなかです。

    でも、鳴けるということは、安心しているということなのかもしれません。少なくとも、「声を出しても大丈夫な場所だ」と思ってくれている。

    そう考えると、あの大音量も、少しだけ愛おしく聞こえてきます。

    本当に、少しだけ......ですが(笑)。

    ◇ ◇◇ ◇◇


    画像: “急に静かになる”変化だけは気にしておきます

    咲セリ(さき・せり)
    1979年生まれ。大阪在住。家族療法カウンセラー。生きづらさを抱えながら生き、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていたところを、不治の病を抱える猫と出会い、「命は生きているだけで愛おしい」というメッセージを受け取る。以来、NHK福祉番組に出演したり、全国で講演活動をしたり、新聞やNHK福祉サイトでコラムを連載したり、生きづらさと猫のノンフィクションを出版する。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日」(KADOKAWA)、精神科医・岡田尊司との共著『絆の病──境界性パーソナリティ障害の克服』(ポプラ社)、『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました──妻と夫、この世界を生きてゆく』(ミネルヴァ書房、解説・林直樹)、『息を吸うたび、希望を吐くように──猫がつないだ命の物語』(青土社)など多数ある。

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