団地案内人
川添大輔(かわぞえ・だいすけ)
団地マニア歴26年の『天然生活』編集部員。
中学時代に暮らした社宅の団地で、その魅力に目覚める。大学時代にはトランジットで滞在したシンガポールの“レトロフューチャー”な団地群に衝撃を受け、社会人になってからは夜な夜なカメラを持って自転車で都内の団地を巡るのが日課に。警察にマークされながらも光が丘団地に通い詰め、憧れが高じてURに入居。前職では、念願の団地本も出版。昭和30年代の歴史的団地が姿を消しつつあるいま、その姿を記録に残すことへの執念は深まるばかりだ。
初期の都営団地にはなかった「あれ」
川添 なんで増築したと思いますか?
関根 やっぱり広さを求めてですか?
川添 それもあるとは思うんですが、もうひとつ、切実な事情がありました。実は、あれがなかったんです。
関根 わかりません。
川添 メゾネットタイプの住棟で、正しい場所は覚えていないのですが、この写真を見てみてください。

2000年ごろ撮影のパイプだらけの謎の住棟。実はこれもメゾネット住棟なのですが何号棟なのか不明です
関根 パイプがすごくて工場みたいです。
川添 ですよね。私はこれを勝手に「団地界のポンピドゥーセンター」と名付けていました。
関根 パリにある、パイプや機械がむき出しの現代美術館ですね。結構大それた命名だと思うんですが。
川添 これも団地愛ゆえと思ってお許しいただければと。そのパイプだらけの写真をよく見ると、何か見えませんか?

あまりにごちゃごちゃして見づらいと思いますので、一部を拡大してみました
関根 今日はクイズが多いですね......。ん? なんだか、小さな窓がついた部屋のようなものがありますね。もしかして、これは、ユニットバス?
川添 そうなんですよー! これは、ベランダに無理やりユニットバスを増設して、その配管をそのまま外に設置しているというレアな事例です。「ポンピドゥーセンター」とどっちが先だったのかわかりませんが、世界的な建築家、レンゾ・ピアノが建築界に衝撃を与えた作品に通じるコンセプトが、日本の団地で自然発生的に生まれていたんですねー。団地的にこれほど胸熱なことってあるでしょうか、いや、ないです!
関根 一気に言い切りましたね。この早口っぷりが文章ではお伝えできないのが残念です。
川添 板状階段室型住宅のベランダ側の写真をもう一度よく見てください。

板状階段室型住宅のベランダ側も拡大して見ました。右の出っ張っている部分が増築部分です。小さな窓の左についている箱状の機械が給湯器だと思います
関根 この小さな窓は!?
川添 多分、お風呂です。窓の横についている機械がありますよね。これはガス給湯器と思われ、お風呂に給湯しているのだと思います。
関根 もしかして、「桐ヶ丘団地」には、お風呂がついていなかったんですか?
川添 そうみたいです。ほぼ同時期に入居が始まった「赤羽台団地」には最初からお風呂がついたのに比べて、そこは大きな差があるんです。当時の日本住宅公団と東京都住宅局との思想や立場の違いなのか、理由はよくわからないのですが。
関根 でも、最初に見たメゾネットタイプの住棟は増築されてなさそうですが?
川添 ベランダの部分をよく見てください。1枚だけ窓がガラスじゃなくなってますよね。

メゾネット住棟のベランダ側も拡大してみました。ガラスでない窓にご注目ください
関根 そして丸い穴がありますね。これはもしかして!?
川添 このタイプは、ベランダの外にではなく、内側に浴室を増設したんだと思います。この大きさからして、もしかしたら湯船のないシャワーブースだったのかもという気もします。
関根 ただでさえ狭い間取りの、居間があるかもしれない部屋にシャワーですか......。
川添 シャワーがついたのはうれしいことだと思いますが、だいぶ、生活空間は圧迫されそうですね。
<撮影/川添大輔 参考文献/『桐ヶ丘三十五年史』>





