• 生きづらさを抱えながら、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていた咲セリさん。不治の病を抱える1匹の猫と出会い、その人生が少しずつ、変化していきます。生きづらい世界のなかで、猫が教えてくれたこと。猫と人がともに支えあって生きる、ひとつの物語が始まります。今回は、庭で保護した母猫・ヨナのお話です。人を怖がり、ソファの下に隠れていたヨナと、少しずつ距離を縮めていった4年間を振り返ります。

    人を怖がっていたヨナが、部屋のまんなかで眠るまで

    4年前の、ちょうどいまくらいの暑い日のことです。

    庭で3匹の乳飲み子を保護しました。すると、その子たちを探しに来た母猫も現れました。とにかく、よく鳴く猫でした。よく鳴く。よくなく。ヨナ。わが家では、そうして名前が決まりました。

    ヨナも保護し、すぐに動物病院へ連れていきました。けれど、外で暮らしていたヨナにしてみれば、突然捕まり、キャリーに入れられ、知らない場所であちこち触られたのです。

    「助けてもらった」というより、「とんでもない目にあった」と思っていたのかもしれません。家に戻ってからも、ヨナは私たちと距離を取りました。

    人が通ると身を硬くする。近づけば逃げる。寝る場所は、いつもソファの下。こちらが1歩近づくと、ヨナは3歩下がります。

    そのため、追わず、のぞき込まず、なるべく近寄らず。同じ家で暮らしながら、「お互いの存在は確認しています」という関係を続けました。

    画像: 『スライム』が現れた!

    『スライム』が現れた!

    半年ほどたち、ようやく少し慣れてきたころ、今度は避妊手術です。

    またキャリーに入れられ、病院へ。縮まりかけていた距離は、再び元に戻りました。「この子は、一生こうなのかな」そう思うこともありました。

    けれど、猫と暮らす目的は、人間に懐いてもらうことだけではありません。抱っこできなくても、膝に乗らなくても、安全な場所でごはんを食べ、安心して眠ってくれるなら、それでいい。

    ヨナが私たちを好きにならなくても、私たちがヨナを好きでいればいい。そう腹をくくりました。

    それからは、仲良くなろうとがんばるのをやめました。毎日ごはんを出し、トイレをきれいにし、寝床を整える。そして、「あなたには何もしません」という距離を守りました。

    画像: 気づくと足元で撫でられ待ち

    気づくと足元で撫でられ待ち

    劇的なことはありません。人が動いていても寝るようになる。目が合っても逃げなくなる。人がいる近くに長くいられるようになる。ヨナの変化は、間違い探しのように少しずつでした。

    そして、いま。ヨナは、ソファの下にはもう入りません。いつも部屋のまんなかで堂々と寝ています。私たちのほうが、踏まないように遠回りして歩きます。さらに、ふいに大きな声で鳴きだします。

    名前の由来を、4年たっても忘れてはいません。

    「どうしたの?」と声をかけると、私のそばへ来て、くるりと背を向け、おしりを高く上げます。
    ヨナの「撫でて」のポーズです。撫でると、満足そうにごはんを食べ始めます。

    ごはんだけ出しても、すぐには食べません。お皿の前でこちらを見つめ、「何かお忘れでは?」という顔をします。どうやら、撫でてもらうことが、ごはんの前菜になったようです。

    画像: おしりわっしゃわっしゃが大好き

    おしりわっしゃわっしゃが大好き

    あれほど人間を怖がっていた猫が、いまでは人間を使います。撫でさせ、満足したらごはんを食べ、部屋のまんなかで眠る。ずいぶん立派な家猫になりました。

    画像: 「もうお外の世界には興味ありません」

    「もうお外の世界には興味ありません」

    それは、心だけでなく、体つきもですが……(笑)

    画像: 抱っこは重いのです......

    抱っこは重いのです......

    ▼ヨナについて綴った、こちらのお話もあわせてどうぞ

    ◇ ◇◇ ◇◇


    画像: ほかの猫と比べない

    咲セリ(さき・せり)
    1979年生まれ、大阪在住。作家、家族療法カウンセラー。夫と10匹の元保護猫と暮らす。心の病や生きづらさを抱えるなか、不治の病をもつ一匹の猫との出会いをきっかけに、「命は、生きているだけで愛おしい」ということを知る。以来、生きづらさのなかにある小さな希望を、ノンフィクションや小説、エッセイに綴りつつ、NHKの福祉番組への出演、全国での講演などでも活動。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日』(KADOKAWA)など。

    note:https://note.com/sakiseri

    ◆ブログ「ちいさなチカラ」

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    「ひとりきりでも、揚げたてコロッケはおいしいけれど、絶滅の前夜、恐竜たちは、誰かと何かを食べたのだろうか」
    大阪の片隅。この世界からこぼれそうな人たちが、ふっと息をつけるうらぶれた居酒屋「飛鳥」。

    ・本日のフランス料理「ちくわぶとねぎのグラタン」
    ・自動販売機の50円のカフェオレチューハイ
    ・猫も喜ぶどて焼きオムレツ
    ・裏メニュー「ぐちゃまぜ豆腐丼」

    雑であたたかなごはんと、傷を負った人々の泥臭いぬくもりを描いた、絶望のなかにあるちいさな灯りの物語(全4編)。



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