(『天然生活』2010年10月号掲載)
使えるものは捨てない
煮汁は取っておき、翌日別の煮物にも使う
煮物をつくったあとに残った煮汁には、具材の栄養やうま味が含まれています。それを捨ててしまうのはあまりにもったいない。
タミさんはそれを取っておいて、翌日、別の煮物に使います。
たとえばこの日は、厚揚げ。煮汁は味をととのえるために新たに水や調味料を足してもOKです。
煮汁を煮立ててから、食べやすく切った厚揚げを入れ、火を弱めて10分ほど、しっかり煮ふくませます。味をみて、煮汁ごと器に入れて完成です。
「余ったものを工夫すれば、おいしいおかずがつくれるんですよ」
とタミさん。なるべくものを捨てず、工夫しながら台所に立っているのです。
紙類も捨てずに、さまざまに活用する
タミさんは、紙箱など厚手の紙を四角く切ってまとめておきます。これは、メモや保存びんや保存箱の名札にするのにとても便利だといいます。
きれいな包装紙やリボンも、もちろん取っておきます。「美しいからとても捨てられないでしょう」といいます。だれかにプレゼントするときや、おすそわけを包むときなどに使うそうです。
戦争を体験したタミさんは近年の風潮を危惧してこういいます。
「日本は資源の乏しい国です。なんでも捨てて、また新しいものを手に入れる。そんなことをいつまでも繰り返していたら、いざというとき、日本人は困ることになると思いますよ」
柑橘類の汁は、お肌の手入れに
「昔よく行っていた酒屋さんの奥さんのお肌がすごくきれいでね。聞いてみると、日本酒をお肌につけているらしい。それで、試してみることにしたんです」というタミさん。
さらにひと工夫して、余ってしまった柑橘類の汁を日本酒に加えて、夜寝る前の化粧水として使っているといいます。
日本酒には保湿効果があり、そこに含まれるアミノ酸類は肌によいもの。そこに柑橘類の有機酸やビタミンCが加われば、たしかに肌によさそうです。
タミさんは、90歳を過ぎても艶やかな肌を保っています。その秘訣は、こんなところにあるのかもしれません。
ラップ、キッチンペーパーは使わない
「どうしてキッチンペーパーを使わないんですか?」
そうタミさんに聞くと、
「さらしがあるのに、どうして使うの?」
と不思議そうに答えます。むしろ、キッチンペーパーを使う理由がわからないのです。
台所には、古くなったさらしを小さく切ったものが準備され、必要なときにキッチンペーパーの代わりに。食後、お皿の汚れを取るときには紙のチラシも活躍します。
ラップの代わりは竹の皮。乾かしたものを保存して、必要なときに使います。
おむすびなどを包めばラップで包むより味も格段によくなり、また抗菌効果もあるので安心です。
びん、プラスチック容器、豆腐ケースなど、すべて再利用
「次に使えるものは、ごみではありません」
これがタミさんの思いです。この思いを胸に、ごみにする前に、何かに利用できないかと知恵を絞り、新たな使い道を考えるのも、日々の楽しみだそうです。
びん類は熱湯消毒して保存びんとして活用します。プラスチック容器はきれいに洗い、おかずを持ち帰ってもらうときなどに利用します。豆腐のケースは重ねられて便利。調理中に、野菜屑を入れたりするのに使います。
捨てなくても、保存する場所や方法を決めておき、その都度整理してあれば、けっして散らからないそうです。
新聞紙や紙類は捨てず、揚げものの油切り、掃除などに使う
タミさん流の「もったいない」生活術においては、新聞紙やチラシ類は、捨ててしまうごみではなく、さまざまに役立つ万能アイテムのひとつなのです。
とくにチラシ類は、油ものを扱うときに重宝します。たとえば揚げもの用のバットにはあらかじめチラシなどを敷いておくそうです。油汚れをふき取るのにも、チラシを使います。
また、鉄のフライパンなどを重ねて置く際は、鍋と鍋の間にチラシや新聞紙を挟んでおきます。
時間があいたときに、チラシを同じ大きさにそろえて1カ所にまとめておけば、日々の家事でさっと取り出し、さまざまに使えるのです。
卵の殻は、捨てずに掃除などに利用
多くの人が捨ててしまうようなもの、たとえば卵の殻やトイレットペーパーの芯も、タミさんは取っておきます。
中華鍋を洗うときには、タミさんは「ガシャガシャしたもので洗うと汚れがよく落ちるから」と、つぶした卵の殻を使います。また、水垢を取るときにも有効だとか。
そうやって使ったあとは、ベランダで育てているプランターの植物たちの肥料に。けっしてごみにはしません。
トイレットペーパーの芯は、プランターに苗を植えるとき、苗が倒れないよう、支えとして使うそう。タミさんの「ごみを出さず活用する」信念に感服します。
なすびのへたは糸に吊るして乾燥させて、黒豆を煮るときに使う
タミさんの台所には、糸が付いたままの針が置いてあります。なすびを使うたびに、へたに針で糸を通して置いておくのです。そして、たくさんのへたに糸を通したら、針を外し、ぶら下げて干します。
これを冬に黒豆を煮る際に使うと、豆を艶やかに色濃く煮ることができ、へた自体もおいしく食べられるのだそうです。
「何事も教わるんじゃなくて、自分で考えて、試してみなきゃだめ」とタミさん。豆をへたと煮るというオリジナルな発想も、常に自分の頭で考えて試行錯誤してきたタミさんだからこそ、思いついたものなのです。
動画:桧山タミさん95歳。いま、伝えたい想い
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<撮影/繁延あづさ 取材・文/土屋 敦>
桧山タミ(ひやま・たみ)
1926年、福岡県生まれ。17歳から料理研究家・江上トミ氏に師事。30代半ばで独立。52歳のとき、現在の地に「桧山タミ料理塾」を移し、40年になる。著書に、愛情と自然の恵みを大切にする家庭料理のありようと、生き方の哲学を余すところなく記した『いのち愛しむ、人生キッチン』、小学校で行った授業をもとに幸せな未来のための話を集めた『みらいおにぎり』(ともに文藝春秋)がある。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです