(『天然生活』2019年10月号掲載/『天然生活web』初出2021年5月15日)
感謝をもって、毎日を過ごす
みんなで食べたらおいしい。皆が楽しく過ごすことが大切
「自分だけもうけて、ひとり占めしたい人がたくさんいる世の中だけど、ほんとうにそれで幸せでしょうか」。タミさんはそんなふうに問いかけます。
若くして夫を亡くし、小さな長屋で子育てしているときも、ご近所さんや友達を呼び、大勢で食事をしていたそう。
「おいしいものをつくるといつもみんなに声をかけていました。狭い狭い部屋だったけど、ちっとも恥ずかしくなんかなかった」とタミさん。
子どもたちも、大勢のなかでみんなで育てたほうがいいといいます。
「ひとりでたくさん食べたって、ちっともおいしくない。みんなでわいわい食べたら、少しのものでもおいしいんです」
賢さとは、だれかが困っていることに気づけること
大家族で何人ものお手伝いさんがおり、多くの人が集まる家庭で育ったタミさんは、小さいころから大人のふるまいをよく観察していたそうです。
新人をいじめる意地悪なお手伝いさんを見て「あんなことは絶対してはいかん」と思い、また、言葉でいわれなくとも、だれかが助けを必要としていることに気づき、さっと手を差し伸べることができる「気ばたらき」の大切さも知りました。
「本当の賢さとは、だれかが困っていることに気づけること、そして手を差し伸べられること」と
いうタミさん。
「それを身につけるのが本当の学び。テストでいい点をとることや難しい学校に入ることより、ずっと大切です」
幸せとは、自然の一部であると知ること
「家庭とは家の庭と書きます。庭があって初めて家庭といえるんですよ」
そうタミさんはいいます。庭、つまり大地につながってこそ、日々の生活があるというわけです。
いまはマンションに住むタミさんですが、ベランダでたくさんの草花を育てています。また土の上を歩くことを意識することで、元気に暮らせているそうです。
「人間が特別だと思ってはいけない。鳥や草花と一緒で、自然の一部なんです」
だから、自然とともに生きるのが一番幸せ。自然の一部として、神さまの心に沿うように、毎日を暮らす。そうすれば、小さなことにくよくよせず、おおらかに、安心して生きられるのです。
人生最期の日は、片づけをしたいです
神さまが喜ぶように、いつも心がけているタミさん。人生最期の日には何をしたいですか、と問いかけると、「片づけ」という答えが返ってきました。
「だって、もし最期のときに散らかしていたら、神さまにお会いしたときに怒られるでしょう?」
常に身のまわりを美しくして生きてきたからこそ、散らかしたままでは逝きたくない—タミさんならではの言葉です。
でも、もしタイミングの問題で、散らかしてしまったら……。
「神さまにお会いしたときに、『親戚に片づけるようにいってありますから』と言い訳しますよ」
そういって、茶目っ気たっぷりに笑うのです。
動画:桧山タミさん95歳。いま、伝えたい想い
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<撮影/繁延あづさ 取材・文/土屋 敦>
桧山タミ(ひやま・たみ)
1926年、福岡県生まれ。17歳から料理研究家・江上トミ氏に師事。30代半ばで独立。52歳のとき、現在の地に「桧山タミ料理塾」を移し、40年になる。著書に、愛情と自然の恵みを大切にする家庭料理のありようと、生き方の哲学を余すところなく記した『いのち愛しむ、人生キッチン』、小学校で行った授業をもとに幸せな未来のための話を集めた『みらいおにぎり』(ともに文藝春秋)がある。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです