暮らしを楽しむ
3月からはじまった富山での暮らし。
季節は春、夏、秋とめぐり、アルプスの山々には雪が積もりはじめ、冬がかなり近くなってきたことを感じています。
田畑のあぜにはコスモスやススキが揺らぎ、栗や柿など、庭からの秋のめぐみを堪能しました。新米やさつまいも、里芋とご近所からのこの季節ならではのありがたいおすそ分けも。
夏の猛烈に暑い間は、庭の手入れをかなりサボっていたので、気がつくとボサボサの状態に。
庭中にはびこる茗荷の地上部分が枯れはじめ非常に見苦しくなってきたので、家人にも手伝ってもらって一掃し、ようやくすっきりしました。
庭中にはびこるだけあって、この夏は大好きな茗荷づくしでした。
木々も山の上から順に色づきはじめています。
友人の誘いで、10月中旬ごろにちょうど紅葉が見頃の黒部ダムに行くこともできました。
見渡す限り赤や黄色に変化した落葉樹と、冬になっても緑のままの常緑樹が混ざりあった錦の森。
ケーブルカーやロープウェイを乗り継ぎ、黒部ダムの上では遊覧船にも乗って、大自然の織りなす秋の美しいパノラマをゆっくりと味わえたよい1日でした。
自然に少しだけ近い暮らしをしていると、ことさらに、地球の回転と季節の移り変わりを身近に感じます。
夏至を過ぎると日毎に日没は早くなり、回転軸が少し傾いていることで太陽の角度も低くなります。気温は日に日に下がり、植物も動物もみな冬支度。
神社の森で子育てしていたサギもみな川辺に移動、北の国からは猛禽類がたくさんやって来ています。
この辺りは柿をねらって熊も出るというので、気をつけなくてはいけません。
この地球上の自然環境という非常にバランスのとれた優れたシステムの中で、我々人間は暮らしていることを改めて感じます。
そして人間自身もまた、とても複雑かつ精密にできている自然界の一員であるということに思い至ります。
特に最近考えるのは、人間の脳の情報処理能力の高さです。
紅葉する森を見てなんて美しいのだろうと考えるのは、まさに人間としての脳の働きがあるからでしょう。
あまりに情報処理能力が高いので、最近の私たちはすぐに退屈してしまって、外部にたくさんの刺激を求めすぎてしまっているように感じます。
本当だったら、自分の中から楽しいことやワクワクすることを作り出す力があるはず。
簡単に手に入る外からの膨大かつ刺激的な情報に慣れてしまって、強い刺激がないと物足りないように。
そして、自ら自分が楽しいという状態になることをしなくなっているのではないでしょうか?
庭にくる小鳥が木の実をついばむ姿をみたり、風に木が揺れて葉が落ちる様子をただみているだけでも、心が落ち着いて穏やかな気分になるということを、立山で暮らし始めて気がつきました。
日が沈むときの桃色に染まった山の輝き、雲の隙間から落ちる天使の梯子。
自然が生みだす偶然の美しさとそれを楽しむ心のゆとり。
自分の中の「楽しい」は、周りにもじわっと広がって、よい循環が生まれて行くと思います。
流れ込んでくる大量の情報を少し遮断して、脳みそを落ち着かせたら、それぞれにとって楽しいことが意外と身近でも簡単に見つかるのではないでしょうか?
岩崎 朋子(いわさき・ともこ)
巣巣店主。世田谷区等々力で16年続けた家具と雑貨の店を2018年に閉店し、2020年6月富山県立山町で再オープン。New巣巣は雑貨を中心としたお茶も飲めるお店。バンド「草とten shoes」リーダー。
<撮影/池田あかね(プロフィール写真)>