• 薬草と旅をこよなく愛する、野草研究家の山下智道さんに、タイの市場で出会った珍しいハーブ「シソクサ」のお話を教えていただきました。艶っぽくて、みずみずしくて、とてもよい香りのするシソクサとは? 野性味あふれるタイの市場の光景と合わせてお楽しみください。

    野性味あふれる、タイの市場の食材たち

    画像1: 野性味あふれる、タイの市場の食材たち

    エネルギッシュな色彩、これまで見たことないような造形、乱雑に並ぶ薬草、野菜、果物、魚介類、昆虫類、精肉。どこを見ても異空間で、あまりの興奮で逆にものすごく疲れてしまうほど。

    日本ではまず見ない光景がそこには広がっており、さまざまな生活のにおいと、度が過ぎる香辛料らの混ざりあったにおいに抱きしめられる、恐るべしタイの市場。

    私は、いわゆるデパートなどできれいに陳列し、おとなしくしている食材よりも、いまにも襲いかかってきそうな野性味のある市場の食材が大好きで、あのギラついた目でこちらを覗かれるような、ゾクッとした感覚は引きずってしまうほど印象に刻まれるもの。

    そのなかでも、とくに私の専門分野である植物、さらに絞ると、有用性のある植物=ハーブに感心があり、現場に行き『リアル』を全身で感じてきました。

    あまりに熱中してしまい、気付けば命がけになりかけた時もありますが(野犬に襲われそうになったことも)、教科書にはない本物を味わえる現場はやはりたまらないものです。

    画像2: 野性味あふれる、タイの市場の食材たち

    今回から始まる「山下智道のハーブ&スパイス紀行」では、そのリアルな経験とそれに関わる植物たちを紹介していきたいと思います。

    私は旅をすることが大好きで、そこに植物と食が絡んでくると、より気分が高まります。

    これまでもたくさん海外に行きましたが、必ず市場に立ち寄り、とてつもない熱量ですべての食材を観察し、市場の端から端までくまなく写真を撮影し、食べ尽くしてきました。

    昔、宮崎の田舎で摘んだシソクサと、タイの市場で再会

    画像: 昔、宮崎の田舎で摘んだシソクサと、タイの市場で再会

    タイの薬草市場においてよく見るのが、パクチーとレモングラス。けれども、その二大巨頭に並び、日本ではあまり見ることがない薬草があります。

    私はその薬草の前にしゃがみこみ、とてつもなく熱い視線で見つめました。それを売っている、市場のママはまるで変わった者でも見るような顔で、苦笑いしながら一本私に差し出しました。『これ、食べてみ!』と。

    私はそれを躊躇なくむしゃくしゃと食べました。正直、パクチーが苦手な私は、一か八かの気分で口まで運んだものの、ひと口目から爽快で、いい意味で裏切られました。

    「う・・うまい。なんだこの子は。艶っぽくて、みずみずしくて、おまけにめちゃくちゃいい香りがする。ちょっと待てよ、この香りかいだことがあるよな。これはもしや・・。昔、宮崎県の田舎の田んぼで摘んだシソクサではないか!!」

    私は嬉しくなり、さらにシソクサをかみしめました。その光景を、嬉しそうにママは眺めていました。

    Limnophila aromatica
    さわやかな芳香が紫蘇を連想させる「シソクサ」

    画像1: Limnophila aromatica さわやかな芳香が紫蘇を連想させる「シソクサ」

    シソクサは、タイではผักกะโฉม(パック・カチョーン)、อ้มกบ(オムコップ)などと呼ばれ、水田などに生える雑草的な扱いをされていますが、市場に置かれるとパクチーやレモングラスと肩を並べるほど人気者に変身する面白い野草です。

    シソクサはオオバコ科シソクサ属の1年草。日本では関東地方から九州、沖縄南部に分布し、なかなか見つからない珍しい野草ですが、タイでは水田や湿地などに生えています。日本で例えると、ドクダミやヨモギのような立ち位置でしょうか。

    和名の由来は、さわやかな芳香が紫蘇を連想させることから「シソクサ」と命名されています。芳香成分はオレンジの皮などに含まれる「D-リモネン」、 シソに含まれ、紫蘇の精油の約50%を占める「ペリルアルデヒド」があります。

    私は市場でシソクサを2束購入し、滞在しているホテルの部屋に持ち帰り、ジッパー付き保存袋に水を入れ、シソクサをいけました。

    もちろん食べるためで、バミー(บะหมี่)やクイッティアオ(ก๋วยเตี๋ยว)という麺料理を屋台でテイクアウトし、シソクサをちぎって薬味のようにして食べました。

    まるで現地の人のように風土に溶け込み、その暮らしに欠かせないハーブやスパイスを知ることで私はどこか懐かしい風を感じた気がします。

    昔の日本でもこのように野性味のあるハーブやスパイスが市場でにぎわっていたのかもしれません。

    画像2: Limnophila aromatica さわやかな芳香が紫蘇を連想させる「シソクサ」


    画像3: Limnophila aromatica さわやかな芳香が紫蘇を連想させる「シソクサ」

    山下智道(やました・ともみち)
    野草研究家。福岡県北九州市出身。登山家の父のもと幼少より大自然と植物に親しみ、野草に関する広範で的確な知識と独創性あふれる実践力で高い評価と知名度を得ている。国内外で多数の植物観察会・ワークショップ・講座を開催。

    著書に『ヨモギハンドブック』(文一総合出版) amazonで見る 、『野草がハーブやスパイスに変わるとき』(山と渓谷社) amazonで見る 、『野草と暮らす365日』(山と渓谷社)amazonで見る など多数。

    ●公式サイト「野草研究家 山下智道」
    https://www.tomomichiyamashita.com/
    ●YouTube:「山下智道のなんでも植物学」
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    ●Instagram:@tomomichi0911
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