(『天然生活』2022年11月号掲載)
脳に刺激を与える習慣
1日1分、大きな声で音読を
簡単で効果が高い「脳トレ」としておすすめしたいのが、音読です。
音読は、「文字を読む」「内容を理解する」「声に出して読む」「読んでいる自分の声を聞く」という複数のことを一度に行う作業。言語機能だけでなく、脳全体に刺激を与えて、血流を活発にしてくれます。
音読する時間はたった1分でも大丈夫です。ポイントは、「文章の内容を理解し、書いてある内容をイメージする」「できるだけ大きな声で、顔全体の筋肉を動かす」こと。新聞やニュース、評論などではなく、小説や絵本のように書かれている情景が頭に浮かぶものを選びます。できるだけ感情を込めて読むことも忘れずに。
脳に刺激を与える習慣
金額を計算しながら買い物をする
計算がおっくうになるのは、脳の老化現象のひとつ。脳機能の衰えを判断するときも、引き算などの計算能力をテストします。この計算能力は、鍛えれば鍛えるほどよくなるもの。ドリルを使わなくても、日常的に計算をする機会はたくさんあるので、ぜひチャレンジしましょう。
たとえば、買い物では、商品をカゴに入れながら総額を暗算します。細かい端数まで計算するのが大変なら、ざっくりと100円、120円という感じで計算を。
現金で支払うときは、小銭のお釣りが出ないようにお金を用意する、もらうお釣りをあらかじめ自分でも計算してみる、などもいいですね。
脳に刺激を与える習慣
ラジオを聞く時間をつくる
視覚で映像を捉えるテレビより、音声を聞いて内容を理解するラジオのほうが、脳のトレーニングには役立ちます。脳は聞いた音を理解しようとすることで、頭の中に自然と映像を浮かべようとします。
ラジオなら、家事や趣味などをしながら聞くこともできるので、日常に取り入れやすいのもメリットです。オーディオブックサービス(※)のような朗読アプリで、本の朗読を聞くのも効果的です。
ただし、音楽をBGMとして聞き流すのは、あまり効果が期待できません。その理由は、「内容を理解しようとする」「映像を思い浮かべる」という脳の主体的な働きが起きにくいからです。
※プロが吹き込んだ音声で本の内容を聞くサービス。
脳に刺激を与える習慣
3日前の夕食を思い出す
脳の働きには「近時記憶」というものがあります。近時記憶とは、数分前から数日前の出来事の記憶。それらすべてを覚えていることは難しいため、脳は近時記憶から大切なものだけを覚えておき、それ以外の記憶にはつながりにくくするという性質があります。これが、最近の出来事でもすぐに思い出せない理由です。
意識的に近時記憶を思い出して記憶回路を結び直すようにするのは、脳の記憶機能を高めることにつながります。
たとえば、3日前の夕食を思い出してみましょう。すぐに思い出せなければ、昨日の夕食から時系列でさかのぼると記憶がよみがえりやすくなります。
脳を若返らせる3つのこと
❶ 脳にエネルギーを送る
高タンパク、高ビタミン、高必須脂肪酸、食物繊維、糖質制限
❷ 脳に刺激を与える
❸ 適度に運動する
「いまはとくに脳に問題を感じないという人も、加齢によっていずれはなんらかの自覚症状が現れます。いまのうちから脳によい習慣を続けることで、若いころのような脳の状態をキープできます」
すでに脳の衰えを感じていたとしても、遅くはありません。
「脳機能の回復はいくつになっても可能です。脳を若返らせて元気を取り戻すためにも、ぜひ毎日の習慣を見直してください」
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〈監修/広川慶裕 イラスト/イオクサツキ 取材・文/工藤千秋〉
広川慶裕(ひろかわ・よしひろ)
認知症予防医。認知症予防専門のひろかわクリニック(京都)、品川駅前MCI相談室(東京)の院長。麻酔科医から精神科医へ転身し、現在は認知症予防の第一人者として予防・早期発見に取り組む。『脳が若返るまいにちの習慣』(サンマーク出版)、『図解でよくわかる 今すぐできる認トレで認知症は予防できる』(河出書房新社)など著書多数。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです