東南アジアの果物にはワイルドな魅力が満載
昔、プライベートでバリに行った際に、夜ホテルの部屋から抜け出し、果物マーケットにパジャマで行った事をいまでも鮮明に覚えています。フレッシュで葉付きの、プリップリで今にも果汁が飛び散りそうなライチを見て、ひとり大興奮したことを。
当時、旅を共にした人と観光地を巡る事も有意義であったかもしれませんが、私はこういったリアルなものを見る方が大好きで、ワイルドなライチの隣にはモンキーバナナ、マンゴスチン、ドリアンがズラリと並び、見ているだけで酔っぱらいそうな魅力が東南アジアの果物にはあるのです。
けれども、今年訪れたタイは、昔の残像をものの数秒で吹き飛ばしてしまうような、強烈なインパクトがそこにはありました。
タイのスワンナプーム国際空港からタクシーで約一時間、今回はアジアエアポートホテルに宿泊。ホテルから直結する広場には、さまざまなマーケットが出店しており、お惣菜、スープ、フレッシュジュース、衣類、薬草、香辛料、そして、ありったけ果物が軒並み顔を揃えています。
早速、部屋に荷物を置き、カメラを肩にかけ、早歩きでマーケットへ。いくつになってもこのワクワク感は、恋人との初デートの待ち合わせのような胸の高鳴りがあり、幼い頃から何ひとつ変わりません。
あらゆる植物を追いかけ続けていますが、やはりお初の子(初めて出逢う植物)との対面は特別な面持ちというか、少し緊張感が漂います。
ネットや図鑑を見て勝手にイメージを膨らませてしまうこともあり、実際のサイズ感、色彩、香り、そして醸し出すオーラというものは、やはりリアルでお会いしないと分からない事が多いのです。
タイの果物市場で出会った、びわのような果実
マーケットの入り口に入った瞬間、しばらく動けなくなりました、いや動きたくなかったのかもしれません。
乱雑に転がされた果物はどれもワイルドで寸前にもぎってきたようなものばかりで、期待が膨らみます。これまで出逢った事のないようなディテールの数々、ましてや口にもしたことがないものばかりで味の想像もつきません。
そのなかでも一番おいしそうだなと感じたのは、艶っぽいびわのような果実で、葉はウルシ科のマンゴーのような単葉で、繊細で力強い側脈が何本も走っています。う、美しい……。
手に取って見ると、あんずのような甘酸っぱい香りが揮発して、鼻の鼻腔まで届きます。果実の付き方も面白く、ぶどうのように房状にどっしりついています。とりあえず一房購入して、ホテルの部屋で頂いてみることにしました。
綺麗な水でさっと皮を洗い、ワイルドに皮のままかぶりついてみました。思った以上に歯ごたえが。ジューシーで酸味があり、マンゴーとあんずを足して割ったような味わいです。甘ったるくないので、一房5個あった果実をあっという間に食べてしまいました。
Bouea macrophylla
マンゴーとあんずを足して割ったような味わいの「マプラーン」
タイではมะปราง(マプラーン)と呼ばれ、どこの果物マーケットでも4~6月あたりでは常連の果物。マンゴーと同様、ウルシ科ボウエラ属の常緑高木です。
マプラーンとよく似た、มะยงชิด(マヨンチット)はマプラーンの改良品種とされています。
果実の種子をスライスしてみると、鮮やかなパープルが現れることから、和名は「アカタネノキ」と呼ばれています。
これを食べながら私は一品ひらめきました。このマプラーンの食感と酸味をいかしてお漬け物、いわゆるアチャールをつくってみても面白いのではないかと思いました。
もし、日本でも入手出来たらマプラーンのアチャールを作り、ネパールの定食「ダルバード」に添えてみたいです。
山下智道(やました・ともみち)
野草研究家。福岡県北九州市出身。登山家の父のもと幼少より大自然と植物に親しみ、野草に関する広範で的確な知識と独創性あふれる実践力で高い評価と知名度を得ている。国内外で多数の植物観察会・ワークショップ・講座を開催。
著書に『ヨモギハンドブック』(文一総合出版) amazonで見る 、『野草がハーブやスパイスに変わるとき』(山と渓谷社) amazonで見る 、『野草と暮らす365日』(山と渓谷社)amazonで見る など多数。
●公式サイト「野草研究家 山下智道」
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●YouTube:「山下智道のなんでも植物学」
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