(『天然生活』2022年6月号掲載)
まずは、アフタヌーンティーの歴史から
アフタヌーンティーの歴史
英国式アフタヌーンティーは1840年ごろ、7代目ベッドフォード公爵夫人のアンナ・マリアが始めたとされています。当時の貴族の食事は遅めの朝食と午後8時ごろにとる夕食の2回。その間の空腹を満たすため、アンナは寝室で午後4時ごろに紅茶と一緒にパンやお菓子を食べるようになりました。それがやがて専用の茶室で友人と楽しむ社交場として発展し、19世紀半ばにはアフタヌーンティーが大流行。貴族だけでなく庶民にまで浸透することになったのです。
空間や時間そのものを楽しむ
「アフタヌーンティー」の魅力
優美な3段スタンド、ティーポットに入った香り高いお茶……。アフタヌーンティーと聞いて思い浮かべるのは、日常から離れた特別な時間です。と同時にその本質は、実は暮らしと密接に結びついているとアフタヌーンティー研究家の藤枝理子さんはいいます。
「建築や家具、調度品の美しさ、ファブリックの手触りや器の口あたりなど。お茶や食べ物だけでなく、こうした“暮らしのなかのアート”を五感を駆使して味わい尽くすことがアフタヌーンティーの真髄なのです。日本の茶の湯でも茶碗や掛け軸、茶花、お香など、さまざまなものを通して空間や時間そのものを楽しみますよね。アフタヌーンティーは、英国版の茶道ともいえると思います」
紅茶の研究のためにイギリスに渡り、一流ホテルから小さな町のティールームまで、さまざまなアフタヌーンティーを体験してきたという藤枝さん。最も心に残ったのは、お茶が人々の暮らしに根付き、自分の内面を見つめたり人とのコミュニケーションを深めたりするための大事なツールになっていることでした。
「一杯のお茶を通じて暮らしのなかに潤いが生まれる。それがアフタヌーンティーの何よりの魅力だと思います。皆さんもその喜びをぜひ体感してみてください」
〈監修/藤枝理子 撮影/山川修一 取材・文/嶌 陽子〉

藤枝理子(ふじえだ・りこ)
アフタヌーンティー研究家。結婚後、紅茶好きが高じてイギリスに紅茶留学。帰国後は紅茶とお菓子のプロデュースに携わり、東京初サロン形式の紅茶教室「エルミタージュ」を主宰。テレビや雑誌、大学の講演会や企業コンサルタントとしても活躍中。著書に『英国式アフタヌーンティーの世界』(誠文堂新光社)など。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです