(『天然生活』2024年5月号掲載)
ものを選ぶことは、自分自身を見つめること
仕事を通じて膨大な「もの」を見つめ、いいものとは何か、美しいとはどういうことかを考えつづけてきた日々。
そのなかで「なぜひかれるのか」「感情が揺さぶられるのはなぜか」を自身に問いかけつづけるうちに「もの選びは、自分を知ること」と思い至るようになったといいます。
「熟練の技や大変な労力の手仕事を見つづけていると、そのエネルギーに圧倒され、改めて『人はすごい』という敬意がわき上がってきます。なかでも私がひかれるのは、つくる喜びにあふれているもの、つくり手の精神の健やかさが伝わるもの。たとえば心のきれいな方が演奏する音は、本当に清らかで美しいものでしょう」

コペンハーゲンの自宅のリビング。シャンデリアは夫の実家から、テーブルは隣人から譲り受けたもの。マルセル・ブロイヤーのパイプ椅子に中国のアンティークカーペット、1940~50年に活躍した芸術家集団「コブラ」のリトグラフなど、国や時代はさまざまなのに、ユキさんの審美眼によって統一感が生まれている

クッションカバーの多くは、色柄にひかれて手にした布を自ら縫ったもの
映画や絵画を観ても、音楽を聴いても、若いころには得られなかった、魂がふるえるような感動があるのは、年齢を重ねる喜びのひとつ。
内面に積み重なった経験が感受性を高め、さらには自分で考え、行動した数々の経験が、体験をいっそう濃く、豊かに感じさせてくれるのです。
「アンティークショップやマーケット、オークションなど、本当にいろんな場所をうろうろしましたよ。いまはパソコンやスマートフォンで何でも検索できますし、画像や動画を見て、体験する前に何か知ったような気になれますよね。けれど実際に経験したことは、情報の桁が違うと思います」

鏡のフレームとキャンドルスタンドは白樺製で、年月を経てあめ色に変化した。花を活けた小瓶は、ワインの酵母入れだったものを花器で利用
〈撮影/Anders Bøggild 取材・文/田中のり子〉
ユキ・パリス
1945年京都生まれ。70年の大阪万博勤務後、結婚を機に渡欧。北欧を中心にさまざまな展覧会の企画、監修を手掛ける。2002年京都にミュージアムショップ「ユキ・パリス コレクション」をオープン。