(『天然生活』2020年7月号掲載)
つつましくも心豊かなシスターたちの暮らし
スペインはバスク地方の小さな海沿いの町サラウツに、跣足カルメル会「善き羊飼いの修道院」があります。
スペイン全域の修道院めぐりをライフワークとしている料理家の丸山久美さんは、外部の人は決して入れないこの小さな修道院の「禁域」で暮らすシスターたちと語り合い、心を込めて日々をいとおしむ暮らしぶりに感動したといいます。

厳粛な雰囲気の「善き羊飼いの修道院」

修道院に併設された教会

美しいステンドグラス。教会はフランス風の様式
修道院の基本は自給自足で、シスターたちは、祈りの時間を中心に、農作業や家禽の世話、清掃、裁縫、家具の修理など、決まったスケジュール通りに規則正しい生活を送ります。
手元にあるものを大切にしたつつましい暮らしではありますが、けっして味気のないものではありません。
「中庭にはたくさんの果樹があり、季節の果物を好きなだけいただけますし、日曜日や特別な祭日、シスターの誕生日などには手の込んだお菓子をつくります。飼っている鶏の産みたての卵を使うと、生地の膨らみも味わいも違うそう。とくにお菓子づくりが得意なシスター・マリアがつくるパイは、みんなが楽しみにしていますね。また、花々を教会に捧げるのもシスターたちの大切な仕事で、中庭は四季折々の花々であふれているんです」と丸山さんは言います。
質素な修道院の暮らしのなかには、私たちが忘れてしまった心豊かな暮らしがあるのです。

畑の手入れをするシスター
そんな修道院の食事は、「畑で育てている旬の野菜、飼っている鶏やアヒルが産んだ卵、地元の漁師さんが分けてくれた余った魚などを使った、とてもシンプルなもの。軽やかで、体にやさしい味わいです」とのこと。
サラダやスープなど、野菜や豆を使った軽い料理の「一皿目(プリメーラ・プラト)」と魚や肉、卵を使った「二皿目(セグンド・プラト)」(カルメル会では肉を控えている)、これにパンを合わせ、最後にデザートをいただきます。

畑のナメクジ対策に導入したアヒル。20羽ほどに増え、卵も採取
つくられるのは、野菜たっぷりで栄養豊富なシンプルな料理ばかり。
食事時間は沈黙が基本で、静かに、心を鎮めていただきます。
「シスターたちは、何より心を込めて、食べる人の幸せを願い、自然の恵みに感謝して食事をつくることを大切にしています」と丸山さん。
外界との接触を最小限にし、いまあるものに感謝して、日々規則正しいリズムを刻みながら静かに、そして心豊かに生活する――彼女たちの暮らしを見習って、心豊かに暮らしたいものです。

中庭には野菜が育ち、花が咲く
〈料理/丸山久美 撮影/清水奈緒 スタイリング/荻野玲子 取材・文/土屋 敦〉
丸山久美(まるやま・くみ)
料理家。東京生まれ。スペイン家庭料理教室「mi mesa」主宰。1986年からスペインのマドリードに14年滞在し、家庭料理を学ぶと同時に修道院めぐりを始める。著書に『修道院のお菓子』(扶桑社)ほか。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです