(『天然生活』2020年8月号掲載)
万葉の時代から日本女性に愛された色
日本茜復活プロジェクトのこと
草木舎のメンバーのひとりが美山に日本茜が自生していることに気づき、試しに根を採って染めてみたところ、朝焼けを思わせる美しい緋色に染まったことからプロジェクトがスタート。
日本茜の栽培は思いのほか難しく、染料となる根を採取するのも大変な労力なのだそう。
「寒さに弱いですし、芽が動くのも遅いので、周辺の除草をきちんとしないと育ちません。野草だから簡単かと思いきや、なかなか気難しい植物です」と渡部さん。

シルクやリネンなどの天然素材を、日本茜で染めたストール。鮮やかな緋色のほか、黄色に染めることもできる
鮮やかに染める方法も、日本の古文書『延喜式』をひもといたりしつつ試行錯誤。
足掛け6年でようやくノウハウを確立しつつあり、2020年3月には、京都・知恩院で「日本茜 伝承と未来」と銘打ち、伝統工芸の職人とコラボした展示を行うまでに。

美山のあちこちに自生する日本茜。地中に広がる根を、染料として使う
『万葉集』で“あかねさす”は、いとおしいものに対する枕詞。「紅の濃こ染ぞめの衣を下に着ば 人の見らくに にほひ出でむかも」という歌もあり、古代では人が振り向くほどに女性を美しく見せる色とされています。
茜で染めた布は浄血や保温に役立つとされ、乳児の産着や女性の下着としても愛されていたとか。
万葉のロマンを秘めた日本茜、今後は私たちにとっても、特別な色となるかもしれません。
教えてくれた人

渡部康子さん(わたべ・やすこ)
「美し山の草木舎」代表。30代のときに家族で東京から美山に移住し、2010年に草木舎を立ち上げる。https://soumokutya.jimdofree.com/

木村美香(きむら・みか)
フローリストとしての知識やセンスを生かしつつ、奈良から草木舎に参加。薬草や染料を栽培し、“野山のはーばりすと”的な暮らしをしている。

草木舎の拠点は、昔ながらの日本家屋。
縁側から、美しい里山が一望できる。
手書き文字で書かれた、かわいらしい看板が目印。
<撮影/辻本しんこ 取材・文/野崎 泉、鈴木理恵(TRYOUT)>
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです