(『日本文化、寄り道の旅~彬子女王殿下特別講義~』より)
英国人は議論好き
また、英国人は議論が好きな人種なのだということも理解することができました。
チュートリアルでも、日常の会話の中でも、自分の言ったことに対して反対の意見を言われると、自分を否定されたような気持ちになり、落ち込んだこともありました。
でも、あるとき、その議論をしていた友人に、後から「自分はこう思っているけれど、アキコの意見もおもしろかった」と言われたことがあります。
反対意見を述べるのは私の言うことを否定しているわけではなく、会話をするための手段の一つなのだということがわかりました。
彼らはいまだに、「紅茶にミルクを先に入れるか、後から入れるか」とか「スコーンに講義の間に広がる「わたし」の可能性クリームを塗ってからジャムを塗るか、ジャムを塗ってからクリームを塗るか」で論争をしています。(科学的にはミルクを先に入れるほうがおいしいと証明されていますが)
別に、結論なんて出なくていいのです。相手の考えを聞き、自分の意見を言うことに意義があるのであって、相手を言い負かすことが目的ではないということがわかってから、私もきちんと自分の思うことを言えるようになっていきました。
向こうでは、自分が主張しなければ、権利を勝ち取ることはできません。チュートリアルの場合で言えば、「話す権利」です。
日本であれば、電車が1分遅れただけで駅員さんが謝ってくれますが、特に英国は30分遅れで電車が着いたらいいほうです。
冬場などは、Due to unavailability of staff …と風邪をひいて運転手が来ないので、当日1本しかない電車がキャンセルになってしまったりもします。
日本では、言わずとも遅延証明書などを駅で配ってくれますが、向こうでは「この電車のキャンセルによって、自分がいかなる不利益をこうむったか」という「自分がこの電車に乗る権利」を主張しなければ、お詫びの言葉も、代替え案も、チケット代も引き出せません。
スーパーで返ってきたおつりが間違っているという日常的な些細(ささい)なことから、寮の部屋が寒すぎるとか、小包を送ることに対してそんな法外な値段をつけられるのはおかしいとか、とにかく、なにかと「主張する」癖がついてしまったように思います。
日本に帰ってきてからも、おかしいと思うことについては、はっきりと「おかしくないですか?」と言ってしまうので、なんでも平らにならそうとする日本の社会の中では厄介がられ、無視されたりはじかれたりします。
でも、言わないでもやもやを自分の中に抱えたままにしているよりは、言ってからそれに反対意見を言われたほうが、気持ちがいいと私は思います。私も立場上、行動や言動に制限はある分、自分の気持ちにだけは正直でいたいと思うのです。
あるとき「私はほんまに組織の駒になれへん人間やねんな」と自嘲気味に話していたところ、仲の良い京都府警さんに「彬子様を組織の駒にしようとする発想自体が間違ってますから」と言われ、そのように思ってくれる人もいるのだととても救われる思いがしました。
本記事は『日本文化、寄り道の旅~彬子女王殿下特別講義~』(扶桑社)からの抜粋です
彬子女王殿下(あきこじょおうでんか)
1981年(昭和56年)、寬仁親王殿下の第一女子として誕生。学習院大学在学中に1年、卒業後に5年、計6年間にわたり英国オックスフォード大学マートン・コレッジに留学。在外の日本美術コレクションの調査・研究にあたり、2010年(平成22年)には、女性皇族として史上初となる博士号を取得。京都産業大学日本文化研究所特別教授、國學院大學特別招聘教授など兼任し、多くの大学で講義・講演を行う。2012年(平成24年)、子供たちに日本文化を伝えるために一般社団法人「心游舎」を創設し、全国各地で活動を続ける。著書に『赤と青のガウンオックスフォード留学記』(PHP文庫)、『新装版 京都 ものがたりの道』(毎日新聞出版)、『日本美のこころ』『日本美のこころ 最後の職人ものがたり』『日本美のこころ イノリノカタチ』(いずれも小学館)など多数。
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すべてのモノには物語がある
日本美術研究者のプリンセスがひも解かれる
英国から日本へ、寄り道のキセキ
大英博物館の「宝物」発見から
伊勢の神宮、お茶の話、皇室の洋装化・帽子をかぶる理由など、
知られざる裏側がここに
◎まるで目の前でご講義くださっているような1冊!
女性皇族として史上初となる博士号を取得、大学で特別教授や特別招聘教授を兼任され、ベストセラーとなった『赤と青のガウン オックスフォード留学記』をはじめ、多くの著書を執筆されている彬子女王殿下。本書には、多くの大学などで講義されたものをまとめた7つの「特別講義」が収録されています。大英博物館の「日本」コレクション、海をわたった法隆寺金堂壁画、美術の裏側にあるもの、神道と日本文化など、リアルな経験談を交えた内容は、まるで目の前で講義を受けているかのような臨場感をもたらしてくれる一冊です。
【目次】
講義の前に 伝統とは「残すもの」ではなく、「残るもの」
特別講義① 大英博物館の「日本」コレクション
特別講義② 西洋から見た日本美術――海をわたった法隆寺金堂壁画
特別講義③ 西洋から見た日本美術――美術の裏側にあるモノ
講義の間に 広がる「わたし」の可能性
特別講義④ 新文化論――神道と日本文化
特別講義⑤ 新文化論――皇室の装束と文化
特別講義⑥ 大英博物館のコレクションから知る日本のお茶の話
特別講義⑦ 平和の礎、スポーツの聖地





