• 熊本県・阿蘇の山奥で平日は畑仕事、週末は夫と小さなレストランを営んでいる折居多恵さん。東京では仕事中心で、料理は好きでも、食べたいものを決めて材料を買う“よそいきの料理”が中心だったそう。移住して10年、いまでは畑にあるものから献立を考え、旬の恵みをむだなく生かすように。今回は、山暮らしで変わった「毎日のごはん」のお話です。

    冷蔵庫は空っぽ、車もない。「食べるものは身のまわりにある」と気づいた日

    こんにちは。折居多恵です。

    20代、30代は東京・代官山で古着のセレクトショップや雑貨クリエイターをしていた東京生まれの私が、57歳のいま、なぜか阿蘇の山奥で暮らしています。

    画像: 写真奥に見えるのが家の前の畑

    写真奥に見えるのが家の前の畑

    移住して10年。暮らしは大きく変わりましたが、なかでも変わったのが「毎日のごはん」です。

    変わるきっかけとなった移住したばかりのころの出来事を、いまでも鮮明に覚えています。

    当時はまだ畑も未完成で、私自身、街暮らしの感覚が抜けていませんでした。ある日、1台しかない車に夫が乗って出かけてしまい、足がない私はどこにも行けない状況に。

    夕暮れどきになり、「さあ、夕食をつくろう」と冷蔵庫を開けてみると、思っていた食材がなく、目の前には、ほぼ空っぽの空間が。

    一番近いスーパーまでは車で40分。肝心の車がないので、買い物にも行けません。困った私は、とりあえず家の周りを1周してみることにしました。

    画像: 9月の畑からはクリームピーマン、ズッキーニ、ミニトマト、なすなど

    9月の畑からはクリームピーマン、ズッキーニ、ミニトマト、なすなど

    すると、わが家のいちじくの木に食べごろの実がなっているのを発見。さらに、コンポストにしていた場所から、かぼちゃが育っているのを見つけました。

    いちじくとかぼちゃを大事に収穫して台所へ。適当なレシピではありましたが、かぼちゃのコロッケといちじくの素揚げをつくり、無事に夫婦ふたりの夜ごはんが完成しました。

    街では食材がなければ買い物に行くしかないけれど、ここ阿蘇の山奥では、食べられるものが身の回りに育っている。「なんとかなるんだなぁ」。この日の発見が、その後の私の「毎日のごはん」を変えていきました。

    「よそいきの料理」から「毎日のごはん」へ

    移住前は、休みの日以外、朝早くから夜中まで店にいて、料理をする余裕はありませんでした。

    料理は好きでしたが、週に一度の休みにたまにつくる料理は、まず何をつくるか決め、スーパーへ材料を買いに行くところから。次に料理をするのは1週間後なので、材料を使いきり、つくったものも食べきる。いわば「よそいきの料理」でした。

    画像: 実をつけたクリームピーマン

    実をつけたクリームピーマン

    ところがいまは、食べたい野菜を畑で育て、使う直前に採りに行きます。言ってみれば、私にとって「畑=スーパー+冷蔵庫」

    野菜を収穫しながら、「今日は何をつくろうかな」と考える。そんな素材ありきの献立が、いまのわが家の「毎日のごはん」になりました。

    旬の野菜は一度にどっさり。「食べきる」工夫も楽しみのひとつに

    画像: 春に収穫した“こぶ高菜”。炒めてペーストにし、保存食に。解凍してトマトソースと合わせるとおいしい

    春に収穫した“こぶ高菜”。炒めてペーストにし、保存食に。解凍してトマトソースと合わせるとおいしい

    畑の野菜は旬を迎えると、お店でも使いきれないほど一度にたくさん採れます。

    画像1: 旬の野菜は一度にどっさり。「食べきる」工夫も楽しみのひとつに

    「この大量の野菜、どうしよう?」と、最初は悩みましたが、いまでは大量消費できるレシピを探すことも楽しみのひとつ。これも移住してからの変化です。

    この夏から秋にかけて、わが家でよくつくったのが「野菜の焼きびたし」。

    画像2: 旬の野菜は一度にどっさり。「食べきる」工夫も楽しみのひとつに

    甘長、ししとう、クリームピーマン、トマト、ズッキーニ、なす、おくら、いんげんなど、そのとき畑で採れる野菜を鉄のフライパンでこんがりと焼き、つけ汁につけておきます。

    つけ汁には、自家製のにんにくしょうゆや梅しょうゆに、お酢や保存してあるかぼすのしぼり汁を合わせたり。手早くつくりたいときは、市販の麺つゆを使うこともあります。

    画像3: 旬の野菜は一度にどっさり。「食べきる」工夫も楽しみのひとつに

    食卓に出すときに焼いた豚肉を加えればメインのおかずに。畑で摘んだみょうがや青じそを添えるなど、少しずつ変化をつけながら楽しみます。

    この焼きびたしをつくるようになって、フライパンもフッ素樹脂加工のものから、焼き色のつく鉄製に変えました。野菜にこんがりと焼き色がつくだけで香ばしく、おいしくなる。フライパンを変えただけなのに、以前より料理がずっと楽しくなりました

    つくりおきがあれば、暑い日にその都度、台所で火を使わなくてもいい。これも、つくるようになってから気づいたよいところです。

    画像: こぶ高菜ペーストのサグカレー

    こぶ高菜ペーストのサグカレー

    以前の私は、つくりおきなんてほとんどしたことがありませんでした。でもいまでは、旬の野菜をたっぷり使った料理がつくりおきとなり、畑仕事を手伝いに来てくれる人たちのまかないになったり、作業の合間にさっと食卓へ出せる一品になったり。

    いまの暮らしを助けてくれる、大切な存在になっています。

    「あるものを生かす」が、いつしか毎日の料理に

    暑い季節は、畑で採れた野菜を鉄のフライパンで焼いて、つくりおきに。反対に寒い冬は、薪ストーブの火を料理に利用します。

    画像1: 「あるものを生かす」が、いつしか毎日の料理に

    ホウロウの鍋に、そのときある野菜と水を入れて薪ストーブの上へ。そのままコトコト火にかけておけば、翌朝にはおいしい煮込みやスープができ上がっています。

    画像2: 「あるものを生かす」が、いつしか毎日の料理に

    薪ストーブでつくった煮込みも、1度で食べきるのではなく、数日間わが家の食卓に登場します。

    1回の食卓のために、つくる料理を決め、材料を買いに行き、食べきる。そんな街暮らしをしていた私が、いまでは「畑に何があるかな?」から料理を考え、つくりおきまで楽しめるようになりました

    これもきっと、近くにスーパーがなく、買い物にも気軽に行けない暮らしだからこそ。そんな環境が、私の毎日の食卓への向き合い方を変えました。そしていまでは、その不便さが逆に、私たちの食卓を豊かにしてくれているように思うのです。

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    ▼57歳・折居さんの「山奥へ移住して変化したこと」そのほかの記事はこちら


    画像3: 「あるものを生かす」が、いつしか毎日の料理に

    折居多恵(おりい・たえ)
    雑貨クリエーター。大手オモチャメーカーのデザイナーを経て、東京・代官山にて週末だけ開くセレクトショップ開業。夫(フレンチシェフ)のレストラン起業を機に熊本市へ移住し、2016年秋に熊本県産山村の限界集落へ移り住み、農業と週末レストラン「asoうぶやまキュッフェ」を営んでいる。
    https://www.ubuyamakuche.com/
    インスタグラム@kuche_ubu



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