• これまでに足しげくスペイン各地の女子修道院を訪ね歩いてきたという、丸山久美さん。古くからスペインの修道院で食べつづけられ、今日まで伝わる、ふだんの料理が存在しています。
    (『天然生活』2013年4月号掲載)

    修道院で食べられてきた、ふだんの味

    画像: セゴビアのコンセプショニスタ修道院。ここの修道女に多くのレシピを教わった

    セゴビアのコンセプショニスタ修道院。ここの修道女に多くのレシピを教わった

    修道女が厳しい戒律に従って暮らす場所、女子修道院。生活の日課が規則正しく決められ、祈りを捧げ、料理や掃除などの家事、お菓子づくり、農作業などの労働に従事しています。そんなスペインの女子修道院をこれまで足しげく訪ね歩いてきた、丸山久美さん。

    「おいしいお菓子を売っている修道院をめぐるうち、修道女たちが、ふだん食べている料理にも興味を抱きました。修道院のレシピは門外不出であり、むやみに教えてもらえません。

    修道女の規則正しい祈りの時間を割いてもらうわけですから、前もって司教さまに交流の許可をお願いして、ようやく許されます。

    昨年、サラマンカから50kmほど離れたカンタラピエドラという、とても小さな村にあるサグラド・コラソン・デ・ヘスース修道院を訪ねました。シスター・マリアアンヘルとの交流が許されたからです。そのとき教えてもらったのが、「グリーンピースのハーブ風味」

    春になると、この修道院ではグリーンピースがとれるそう。かつては自給自足をしていた修道院ですが、いまでは外部からの食材調達を余儀なくされています。それでも野菜やハーブ、果物はつくりつづけているところが多いんです」

    画像: 修道院の売店では、窓越しにレシピについて尋ねれば、教えてくれることも

    修道院の売店では、窓越しにレシピについて尋ねれば、教えてくれることも

    修道女の健康をつかさどるスペイン修道院の食事

    スペインに春が訪れると「聖週間」という厳粛な行事があります。「復活祭」の前、イエス・キリストが復活するまでの1週間を「聖週間」と呼び、イエス・キリストが死を迎えた「聖金曜日」に肉を絶つという習わしが。

    「たらとひよこ豆の煮込み」は、この日に食べる代表的な料理で、修道院ではもちろん、スペインの家庭で定番的につくられます。

    「スペインでは干しだらをもどして使いますが、日本では入手しにくいため、甘塩だらを使います。ひよこ豆の煮汁と、新玉ねぎ、たらから出るだしが絶妙。スペイン流に、ゆで卵をくずしながら食べると、まろやかな味になりますよ」

    画像: 3月末~4月初旬には「聖週間」がある。マリアやキリストの像を山車にのせて行進する

    3月末~4月初旬には「聖週間」がある。マリアやキリストの像を山車にのせて行進する

    修道院の食事は、朝、昼、夜と時間が決められています。交代制でつくり、1週間の献立が決められた修道院もあるそう。

    修道女がふだん食べている食事は、素材の滋味を味わう、やさしくてシンプルな味つけ。ヘルシーな食事をバランスよく食べるので健康的。修道女に長生きで肌がきれいな人が多いといわれるのもうなずけます。

    また、献立は、第一の皿(野菜や豆類)、第二の皿(魚か肉、卵)、それに、パンや果物がつくことも。毎週金曜日は肉を絶ちます。よく使う食材は、じゃがいも、豆類、米、野菜など。

    これらを使ったレシピは多く、パプリカパウダーやイタリアンパセリなどのハーブを多用し、飽きないよう工夫しています。煮ればだしが出て保存食にもなる生ハムは、炒めものやスープにもよく使われる食材。調理法は、スープ、煮込み、オムレツ、フリートなど、さまざま。

    画像: 「エンパナーダ」は、野菜や魚介類、ソーセージや豚肉などをはさむガリシア風パイ

    「エンパナーダ」は、野菜や魚介類、ソーセージや豚肉などをはさむガリシア風パイ

    「ある日、修道女が大切にしているという古いレシピ帳を見せてくれました。中には、たくさんの絵が貼られて、ほほ笑ましい気持ちになったことを覚えています

    今回のレシピは、修道院に昔から伝わるものを、私なりのアレンジも加え、再現しました。材料が入手しやすく、日本人の口にも合う春らしいレシピなので、ぜひ挑戦してみてください

    <料理/丸山久美 撮影/清水奈緒 スタイリング/大谷マキ 取材・文/花沢理恵>

    丸山久美(まるやま・くみ)
    料理家。東京生まれ。スペイン家庭料理教室「mi mesa」主宰。スペインのマドリードに14年間滞在中に、現地の料理を学ぶかたわら、修道院めぐりを始める。著書に、修道院お菓子のレシピをまとめた『修道院のお菓子』(扶桑社)がある。2021年3月25日に『バスクの修道女 日々の献立』amazonで見る がグラフィック社より発売。
    Instagram:@kuu_maru

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    天然生活の本『修道院のお菓子』(丸山久美・著)

    『修道院のお菓子 (天然生活の本)』(丸山久美・著/扶桑社刊)

    修道院のお菓子 (天然生活の本)』(丸山久美・著/扶桑社刊)

    amazon.co.jp

    スペインでは、中世の頃に修道女が試行錯誤を重ねて生み出したお菓子が、長い間愛されつづけてきています。いまでも、お菓子づくりをつくり続けている修道院があり、「修道女のお菓子」と呼ばれ大切にされています。「おいしいお菓子を売っている修道院はないかしら」と、旅行や遠出のたびに探し、出会った、素朴だけれど、繊細で質のよいお菓子たち。

    それから20年以上が経ちましたが、未だに一番つくっているのは修道院のお菓子。そんな、素材もシンプルでつくるのも簡単だけれども、飽きがこない修道院のお菓子50品を紹介します。



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