(『天然生活』2021年3月号掲載)
早川ユミさんに聞く、これからの暮らし方
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
持続可能とはいえない生活を続けてきた結果、地球も経済も悲鳴をあげている。私たちはいま、時代の転換期にいると思います。
レジ袋の有料化が始まって、世の中がちょっと変わりましたよね。このあいだ山の神さまのお祭りの餅まきがあったのですが、みんなかごや布袋を持って来ていて、レジ袋はひとりもいなかったんです。やればできるんだ! って、うれしい驚きでした。
昨夏、英国留学中の14歳の藤山すずさんが弟子入りしたいって自作の新聞を持って高知の谷相までやって来たんです。新聞のテーマは「ごみを減らしてもっとクリエイティブに」。いろんな提案のなかに「お肉や魚を買うとき、保存容器に入れてもらおう」っていうのがありました。そうしたら食品トレーを使わなくて済みますよね。プラスチックは少しでもなくした方がいい。
友人のミュージシャン、青葉市子さんはライブのたび水筒を持ってステージに出ています。一緒に使っていたステンレスのストローは、そのころまだ台湾でしか見たことがなくて、取り入れるのが早いなって思ったけれど、日本でもこれから当たり前になりそうですね。意識が変わるだけで、暮らしは変わります。
街を耕す、地方で暮らす……。暮らしの可能性を広げよう
いま心配なのは食べもの。日本の自給率は38%ほど、3人に1人程度しかまかなえない。世界経済が収縮し、輸入できないとなればどうなるでしょう。ロシアのダーチャやドイツのクラインガルテンのように日本でも小さな自家菜園が持てたら。
ニューヨークでは木箱を使って歩道に畑をつくっているところもあります。空き地でも街路樹でも、土のあるところに種をまいて畑にすればいい。都会暮らしは土と無縁の生活のように思えますが、そんなことはありません。街を耕す。そう意識を変えれば可能性は広がります。
欧米に比べ日本の農薬の使用基準はゆるく、使用量はとても多いのです。自分たちでつくれば安心安全ですよね。お金がお金を生み出す経済が世の中を動かしてきたけれど、お金よりも幸せや人の命をものさしにした持続可能なやり方があると思うんです。
自粛期間が明けて、延期になっていたちくちくワークショップを再開したのですが、参加してくださった方に「コロナで変わった?」って尋ねると、皆さんが感じていたのは、「不便さ」よりも「家族との時間の大切さ」でした。
子どもと話す時間が増えた、料理が楽しくなった、種まきを始めたという人もいて。やりたかったことに向き合って、だれもが確実に変わっていってるんですね。
これまで何もかも都会に集中していたけれど、土のない暮らしが人間にどんな影響を及ぼすか、明らかになってきた気がします。土に触っている人は強くて丈夫、この辺りに暮らす人は80歳、90歳が現役です。食べものも健康も土が生み出してくれる、土のある暮らしに立ち返るときだと思います。
リモートワークが進んでローカルななかで子育てすること、働くこともやりやすくなる。国が守ってくれるのを待つのではなく小さな単位で、家族や地域のコミュニティでできることを考えていけたら。暮らしが変わっていくのが楽しみ、時代の変わり目をしっかり生きていきたいと思います。
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早川ユミ(はやかわ・ゆみ)
布作家。高知を拠点に畑や暮らし、人々の心に種をまく。NHKワールドの「ゼロ・ウェイスト特集」や、Eテレ「早川ユミの暮らしごと」などの番組に取り上げられている。近著『くらしがしごと 土着のフォークロア』(扶桑社)も好評。
〈撮影/河上展儀 取材・文/宮下亜紀〉
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高知の山間で暮らす、布作家の早川ユミさん。畑を耕し、果樹を栽培したり日本みつばちを育てたり、自然ととも暮らしています。
2022年のコロナの時代を、どう生きていくべきか。私たちは大きな時代の変化のなかを生きています。
自分で食べるものや着るものは自分の手でつくり、暮らしを自給自足に。高知の山のうえから、「くらし」と「しごと」について深く考察し、分かりやすいことばで綴る1冊。
高知の里山の暮らしを記録した美しい写真と、躍動感あふれるイラストとともにお楽しみください。