(『天然生活』2023年2月号掲載)
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
日本人の成人の“約4割”が「頭痛持ち」
1年ほど前から頭痛に悩まされているという、なかしまさん。脳神経外科医の來村昌紀先生によると、日本人の成人の約4割が頭痛を抱えているといいます。
「頭痛外来にくる患者さんのほとんどは、脳外科的に心配のない片頭痛や緊張型頭痛です。これらは簡単にいうと、脳の疲れと興奮から起こります。先進国ほど頭痛患者が多いことからも、情報社会ゆえの現代病ともいえますね」
來村先生の治療は、西洋医学をベースにしながら漢方も積極的に取り入れているのが特徴です。
西洋医学は症状に対処する一方、東洋医学は体全体を診る。この点に大きな違いがあるといいます。頭痛の治療に漢方薬を使う利点はどんなところにあるのでしょうか。
「漢方は体質のタイプが実証か虚証かでも処方する薬が変わり、頭痛以外の症状や生活習慣なども聞いて総合的に診ていきます。つまり、それだけひとりひとりに合った治療ができるということ。とくに女性は月経による体調の揺らぎも頭痛に影響するので、体全体を細やかに診ることが大切なんです」
体質や心身の状態を表す2つの「証」
〈実証〉
・体格がいい
・胃腸が強い
・疲れにくい
・元気がある
〈虚証〉
・やせ型
・胃腸が弱い
・疲れやすい
・元気があまりない
頭痛とうまくつきあっていく方法はあるの?
なかしまさんの頭痛の具体的な症状、そして上手なつきあい方について、來村先生にアドバイスをいただきました。
なかしまさんの頭痛の悩み
・1年くらい前から頭痛持ちに
・定期的に強い痛みが続く
・目の乾きや痛みもある
・光がまぶしく感じるときがある
・痛みで寝られないときがある
なかしま 私の頭痛は種類がはっきりしないんです。最初、目が真っ赤に充血し、目のまわりやこめかみに強い痛みが出て受診したら群発頭痛といわれ、その後に行ったクリニックでは持続性片側頭痛や片頭痛と診断されました。
來村 なるほど。目の痛みや充血以外にはどんな症状がありますか?
なかしま 光がとにかくまぶしくなって、頭に熱がこもるようにカッカします。8月と9月がかなりしんどい時期で、夜中に痛みで目が覚めて眠れなくなることもしょっちゅうでした。
來村 群発頭痛と片頭痛が重なっている感じだね。最近は収まっている?
なかしま はい。最初効いていた薬が効かなくなってしまい、近所の漢方薬局に相談して釣藤散を飲み始めたら少し楽になって。それと並行して頭痛予防の注射を定期的に打つようにしたら、だいぶ落ち着いてきました (記事掲載時) 。
來村 釣藤散も注射も合っていたんですね。いまは西洋のいい薬がいろいろ出ていて、劇的に改善する人も多いです。まず西洋の薬を使って合わなかったら漢方を使う。あるいは併用する。そんなふうに“いいとこどり”するといいと思います。命にかかわる頭痛もあるから検査も必要ですしね。
なかしま 西洋の薬が優れていることは実感としてわかります。でも同時に、長く飲みつづけることに少し罪悪感があるというか。よく効くからこそ、体に負担があるような気もしていて。
來村 そうですね。副作用のことでいえば、たとえば片頭痛予防の注射は、2~3年使うとどうなるかというデータはあるけれど、10年使って大丈夫かはわからない。新薬だから、長く使った人がいないんです。
なかしま その意味では漢方は安心して使えますよね。
來村 漢方にも副作用はありますが、なにせ江戸時代から使われているから歴史が違います。昔の偉い先生たちが膨大なデータをまとめてくれていて、長く使うとどうなるかおおよそわかっている。その安心感はありますね。
なかしま 東洋医学の「全体を診る」考え方もすごくいいなと思っています。
來村 患者さんには頭痛以外の症状もていねいに聞きます。胃腸やお通じ、睡眠、月経などに問題があれば、その症状を先に、または同時に整えることで頭痛を緩和させる。そういう治し方が東洋医学ならでは。面白いですよね。
「頭痛くらいで」とがまんせず、まず受診を
なかしま 毎日のように頭が痛くて辛かったとき、「これが続いたらどうしよう……」と絶望していました。いまは落ち着いていますが、いつまた痛みが来るかという怖さがあります。
來村 女性は閉経がひとつの区切りになると思います。月経周期によるホルモン量の変動が頭痛に影響するので、それがなくなればかなり楽になるはず。閉経に向かいホルモンが減少していくときが、最後の辛い時期かもしれません。大丈夫、終わりはありますよ。
なかしま 私もそうでしたが、頭痛があっても市販の鎮痛剤でやり過ごしたり、自分なりに対処したりしている人が多い気がします。私の場合は、血行不良が原因と思い込み、温めたりマッサージしたりして悪化させてしまって。
來村 緊張型頭痛はもんだり温めたりで改善しますが、片頭痛や群発頭痛には逆効果です。でもそんなことわからないよね。だからこそ頭痛がある人は自分で判断せずに受診してほしいです。
なかしま まずどこに行くのがいいでしょうか。頭痛外来、脳外科、脳神経内科……、いろいろあって迷いました。
來村 近所に頭痛外来があればそこがいいかな。それか、かかりつけの内科に相談して先生を紹介してもらってもいいかもしれません。あと、よく痛みが出たときに行かないと意味がないと思われがちですが、痛くないときでも問診で診断できるので大丈夫ですよ。
なかしま 先生がそういってくれることで受診のハードルが下がると思います。私もお話しして不安が軽くなりましたし、さらに漢方に興味がわきました。
〈撮影/星 亘 イラスト/はまだなぎさ 取材・文/熊坂麻美〉
來村昌紀(らいむら・まさき)
頭痛専門の脳外科医として大学病院に勤務しながら漢方専門医の資格を取得。2014年、千葉県に、「らいむらクリニック」を開設。著書に『頭痛専門医・漢方専門医の脳外科医が書いた頭痛の本』『漢方専門医の脳外科医が書いた漢方の本・入門編』(ともにあかし出版)など。YouTubeチャンネル『らいむらクリニック チャンネル』でも、頭痛や漢方のお話を解説。
YouTube:らいむらクリニック チャンネル
インスタグラム:@raimura.clinic
なかしま・しほ
おやつの店「foodmood」店主。ベトナム料理店、オーガニックレストランで経験を積み、料理家に。体にやさしく、シンプルな材料でつくるお菓子が人気。初のガイドブックとなる新刊『なかしましほ ソウルのおいしいごはんとおやつ』(KADOKAWA)が発売中。
X(旧ツイッター)@nakashimarecipe