(『天然生活』2021年3月号掲載)
都会でも無理なく楽しく、“脱プラスチック”を目指す
「12月15日 いわしの丸干し、パスタ、わかめ、スパークリングワイン、かぶ」
「12月16日 牡蠣」
これは、東京都渋谷区に暮らす高砂雅美さんが写真とともに残している、一家のプラスチックごみの記録。名づけて「ごみ簿」。
以前に唯一成功したダイエット法がレコーディング・ダイエットだったことから、「ごみを減らしていくのにも、記録し、可視化する方法が自分に合っているのでは」と思い立ち、2019年春よりスタート。
夫の淳二さんは、「家からプラスチックを減らしていこうというのは本気を要すること。ふたりの意志がぴたっと噛み合ったのがあのタイミングだった」と、ともに始動した経緯を振り返ります。
ごみ簿を通し、自らの暮らしのくせを見いだすことができたという雅美さんは、「改善点やプラスチックの代用アイデアが思い浮かぶようになった。
たとえば、漬物や保存食は、簡単なものはうちでつくれば買う必要がないね、とか。ラップ代わりのみつろうラップがなくても、お皿をかぶせておけばいいんだ、とか」と、足元から変化の歩みを語ります。
ベランダ菜園も「薬味は買わずにすべてまかなえる」ほど充実し、脱プラスチックにひと役買っています。
物の旅路の最後を想像する力を
高砂家のこうした転換の背景には、写真家である淳二さんが世界を旅し、35年間海に潜って見つづけてきた景色の変化があります。
「年々、海岸に打ち寄せられるプラスチックごみが目に見えて増えている。海が飽和して、あふれて突き返してきた感じがしています。
温暖化による海面上昇で、いずれ沈んでいくといわれているツバルでは、20年前に行ったときも、満潮時は町が水に浸っていたけれど、ごみは目立たなかった。
でも先日観た映像では、打ち寄せるごみが山のようになっていて、ここまで変わってしまったのかと。あれは、あの島のごみではないんですよね」
ごみのあふれる社会を変えていくには、「物の旅路の最後を想像する力がなければ、さらにつくりつづけてしまう」と憂う一方、いまつくられ、売られている物には「私たちの欲求が反映されている」と自省もする雅美さん。
「いつも買っていた納豆のメーカーさんに、あのプラスチックパックは替えられないのかと尋ねたことがあります。
そうしたら、『20年前、紙製に替える話もあったが、消費者から不便だと不評を買った』と。求めてきたのは自分たちだと気づかされたんです」
まずは自身のライフスタイルから変えていこうと試み、「制限のあるなかで、ある物を生かす暮らしがむしろ楽しい」と笑う雅美さん。
引き出しからそっと取り出したのは、リボンでたばねた、プラスチックの柄の小さなカトラリー。
「娘が子どものころ、散々お世話になった物だから、かわいくて捨てられないの。小さい子が集まったときには使おうと思って」
何かをだれかを非難する前に、ある物を大事に使うこと、使い捨てないこと。根底にあるそんな心持ちが垣間見えた瞬間でした。
〈撮影/小禄慎一郎 取材・文/保田さえ子〉
高砂雅美(たかさご・まさみ)
東京都渋谷区在住。写真家の夫、淳二さんの撮影に同行して海外の多様な自然に触れてきた経験から環境問題に関心を抱き、生活ごみの削減などに取り組む。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです