• イギリスのオックスフォード大学で日本美術史を研究し、女性皇族として史上初となる博士号を取得された、三笠宮家の彬子(あきこ)女王殿下留学先のオックスフォード大学でのリアルなご体験と、英国生活での発見についてお教えいただきました。
    (『日本文化、寄り道の旅~彬子女王殿下特別講義~』より)

    父の呪文からはじまったオックスフォードへの留学

    私は学習院大学の学部2年生の秋から1年間オックスフォード大学マートン・コレッジに留学をしました。

    オックスフォードのモードレン・コレッジで2年間学ばれた父から、私は幼いころから事あるごとに「お前はオックスフォードに行くんだ。オックスフォードに行くんだ」と繰り返し呪文のように聞かされてきました。

    そのおかげで、私も子ども心にオックスフォードの恐ろしさなど露程(つゆほど)も知らずに「私は将来オックスフォードに行く」のだとおぼろげながら思っていましたから、女子高等科時代の学部説明会で、学習院大学にはオックスフォード大学マートン・コレッジとの単位互換の協定留学の制度があることを知り、夢が現実へと近づいていくことになりました。

    画像: 大学での彬子女王殿下(筆者提供)

    大学での彬子女王殿下(筆者提供)

    留学中、英語がおぼつかない私にとって、一番大変であったのは、チュートリアルでした。チュートリアルとはオックスフォード・ケンブリッジ独特の授業形態で、指導教授(チューター)がお題を出し、それにそった小論文(エッセイ)を書いていって、教授と学生で議論をするという少人数制の授業です。

    私は当時、歴史学専攻の同級生2人と一緒に受けていたチュートリアルがありました。

    自分がエッセイを読み上げるときはまだいいのですが、英語が母国語の二人がエッセイを読み上げるときは、そもそも聞き取れないので、要点がわからず、その後のディスカッションでも何が議論されているのかよくわからないまま、一言も発言できずに終わってしまうことがよくありました。

    でも、チュートリアルパートナーであった一人の提案で、1学期目の終わりころからチュートリアルの後に皆でお互いのエッセイを交換するようになりました。

    二人とも良くできる子たちだったので、文章はとてもわかりやすく、論旨の組み立て方、ポイント、単語の使い方など勉強になることばかりでした。それをチュートリアルの後に読むことで、理解できていなかったことを確認でき、おさらいにもなりました。

    また、そのころから私は、「1チュートリアルにつき、1発言」を目標に据えました。

    二人がよどみないディスカッションをしているのに対して、とても低い目標ではありましたが、何か自分に言えそうなことを発見したら、その隙を逃さずなんとか発言するということにチュートリアル中の全精力、全集中力を注ぎ込みました。

    画像: Chapel of Merton College(筆者撮影)

    Chapel of Merton College(筆者撮影)

    当時、私は自分のぼろぼろの英語が恥ずかしいという思いがありましたが、向こうでは「何も言わない」=「何も考えていない」とみなされてしまいます。

    ですから、文法はめちゃくちゃであろうと、ただの単語の羅列であろうと、とにかく「何か言う」ようにしました。すると相手は、「この子は何か言おうとしている」ときちんと聞いてくれます。「それはこういうことを言おうとしているの?」と丁寧に言い直してくれたりします。

    「そうか、こういう風に言えばいいのか」と理解ができるので、それが結果的に私の語彙力、英語力の向上につながりました。

    日本でも、外国の人が片言の日本語で、道を尋ねてきたとしたら、我々はそれを注意深く聞いて、相手が何を言わんとしているか理解しようとします。それは、英語を話す英国人にとっても同じことだったのです。

    もちろん目標達成できない日もありましたが、間違っていてもいいから「とりあえず何か言ってみる」ようにしたおかげで、何も考えていないと思われることはなくなり、「アキコはどう思う?」と水を向けてもらえることが増え、少しずつ1発言ばかりか、徐々にディスカッションに参加していけるようになりました。

    本記事は『日本文化、寄り道の旅~彬子女王殿下特別講義~』(扶桑社)からの抜粋です



    彬子女王殿下(あきこじょおうでんか)
    1981年(昭和56年)、寬仁親王殿下の第一女子として誕生。学習院大学在学中に1年、卒業後に5年、計6年間にわたり英国オックスフォード大学マートン・コレッジに留学。在外の日本美術コレクションの調査・研究にあたり、2010年(平成22年)には、女性皇族として史上初となる博士号を取得。京都産業大学日本文化研究所特別教授、國學院大學特別招聘教授など兼任し、多くの大学で講義・講演を行う。2012年(平成24年)、子供たちに日本文化を伝えるために一般社団法人「心游舎」を創設し、全国各地で活動を続ける。著書に『赤と青のガウンオックスフォード留学記』(PHP文庫)、『新装版 京都 ものがたりの道』(毎日新聞出版)、『日本美のこころ』『日本美のこころ 最後の職人ものがたり』『日本美のこころ イノリノカタチ』(いずれも小学館)など多数。

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    『日本文化、寄り道の旅 ~彬子女王殿下特別講義~』(彬子女王・著/扶桑社・刊)

    画像: 幼時からの「父の呪文」が導いた彬子女王殿下のオックスフォード留学。おぼつかない英語で“とにかく何か言う”に全力を傾けた先に開いた英国文化への扉

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    すべてのモノには物語がある
    日本美術研究者のプリンセスがひも解かれる
    英国から日本へ、寄り道のキセキ


    大英博物館の「宝物」発見から
    伊勢の神宮、お茶の話、皇室の洋装化・帽子をかぶる理由など、
    知られざる裏側がここに

    ◎まるで目の前でご講義くださっているような1冊!

    女性皇族として史上初となる博士号を取得、大学で特別教授や特別招聘教授を兼任され、ベストセラーとなった『赤と青のガウン オックスフォード留学記』をはじめ、多くの著書を執筆されている彬子女王殿下。本書には、多くの大学などで講義されたものをまとめた7つの「特別講義」が収録されています。大英博物館の「日本」コレクション、海をわたった法隆寺金堂壁画、美術の裏側にあるもの、神道と日本文化など、リアルな経験談を交えた内容は、まるで目の前で講義を受けているかのような臨場感をもたらしてくれる一冊です。

    【目次】
    講義の前に 伝統とは「残すもの」ではなく、「残るもの」
    特別講義① 大英博物館の「日本」コレクション
    特別講義② 西洋から見た日本美術――海をわたった法隆寺金堂壁画
    特別講義③ 西洋から見た日本美術――美術の裏側にあるモノ
    講義の間に 広がる「わたし」の可能性
    特別講義④ 新文化論――神道と日本文化
    特別講義⑤ 新文化論――皇室の装束と文化
    特別講義⑥ 大英博物館のコレクションから知る日本のお茶の話
    特別講義⑦ 平和の礎、スポーツの聖地



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