• 朝9時までに、ひととおりの家事を終える。それが、坂井より子さんの段取りの基本です。やるべきことを先まわりして済ませれば、暮らしを味わう余白の時間が生まれます。
    (『天然生活』2017年1月号掲載)

    体も頭も元気な朝9時までに。毎日のためない家事

    料理好き、おもてなし好き。

    それが知らぬ間に評判となり、30年ほど前から自宅で料理教室を開くようになった坂井さん。

    教えていたのは、料理だけではありません。鍋や器の収納方法から、ガスレンジの掃除の仕方、買い物から野菜のストック方法まで……。

    画像: 「料理はまず目で食べるもの」という坂井さん。少しずつ集めた和食器は、奥行きがあり収納力抜群の水屋簞笥に

    「料理はまず目で食べるもの」という坂井さん。少しずつ集めた和食器は、奥行きがあり収納力抜群の水屋簞笥に

    こまごまとした主婦の仕事を、どうしたら段取りよくこなせるか、「いやいや」ではなく、ワクワクと楽しみながらやるにはどうしたらいいのか……。そんなコツを伝えつづけてきました。

    でも、なによりも、いつもにこやかに家事に向き合う坂井さんの姿そのものが、大切なことを教えてくれるようです。

    画像: いつも笑顔の坂井さん。無理をしないで、少しの手間とアイデアで家の中が心地よく整えば、機嫌よく過ごすことができる

    いつも笑顔の坂井さん。無理をしないで、少しの手間とアイデアで家の中が心地よく整えば、機嫌よく過ごすことができる

    朝5時半。坂井さんの一日が始まります。

    身支度をしたら、すぐにとりかかるのが、洗濯物をたたむこと。毎日、一日の終わりに洗濯をし、干してから寝るのだとか。

    「朝、洗濯物を干したまま出かけて、お天気が怪しくなると、出先で気が気じゃなくなるでしょう? そんな心配をしなくていいように、夜に洗濯を済ませるようになりました。たたんで、しまって……と面倒な作業を朝一番に済ませておけば、あとが気楽なの」と笑います。

    画像: 朝にすることは、洗濯物をたたむこと、夕食の支度もできるところまでとふき掃除。朝、やっておけば、あとがラクに

    朝にすることは、洗濯物をたたむこと、夕食の支度もできるところまでとふき掃除。朝、やっておけば、あとがラクに

    坂井さんの段取りは、すべてがこんなふう。

    「嫌だなあ」「面倒だなあ」と思うことから片づける。やるべきことは先に済ませ、あとでラクをする……。

    「後まわしにしないことがコツ。食器をさげたらすぐ洗う、買い物から帰ったらすぐ野菜を小分けにしてしまう、といった具合。それぞれの仕事に何分かかるのか、計ってみるのがおすすめですね。夫婦ふたりのお皿なら2分で洗えるし、洗濯物をたたむのは5分ほど。思っている以上に、時間はかからないものなんです。だから、やっちゃったほうが早いでしょう?」と坂井さん。

    考え、修正し、やってみる。工夫するプロセスを楽しんで

    結婚し、1年間の共働きの時期を経て専業主婦となったとき、毎日が、それは楽しかったそう。神奈川・葉山の海沿いの町をお散歩したり、ママ友たちとお茶を飲んだり。

    「自分で時間をやりくりして、やるべきことを終わらせれば、あとは何をしてもいい。それがうれしくて、家事の段取りを考えるようになりました」

    当時、葉山にはスーパーが一軒もなく、週に一度やってくる魚屋さんから魚を買って、自分でさばいたり、毎日は買い物ができないから、野菜を長持ちさせるために、下ごしらえをしたり。

    「子ども服だって、近所には売っているお店がほとんどなかったから、ミシンを踏んでつくったり、セーターを編んだり。不自由だったから、いろんなことができるようになったのかもしれませんね」

    実は坂井さん、1カ月ほど前から新居で暮らしはじめたばかりです。

    40年間、暮らした古い木造の一軒家を取り壊し、3世帯住宅を建てました。

    2階には長女の真理子さん夫妻と孫の花ちゃん、海くんが、3階には息子の文雄さん夫妻と孫の瀬奈ちゃんが暮らしています。

    家族の形態は、子どもの成長によって刻々と変わっていきます。

    坂井さんにも、いろいろな時代がありました。真理子さんは高校生のときからアメリカへ留学し、文夫さんも続けて渡米。

    思いのほか早く子離れしてからは、ご主人と国内外の旅行を楽しみました。

    数年前に、真理子さんがふたりの子どもを連れて帰国。同居することになり、一気に暮らしはにぎやかに。

    孫たちのためにごはんをつくる日々が始まりました。

    画像: 娘さんたちが渡米後は、夫婦で旅行に。「あのころ十分に楽しんだから、再び孫たちと同居したときに家事や料理をがんばれました」

    娘さんたちが渡米後は、夫婦で旅行に。「あのころ十分に楽しんだから、再び孫たちと同居したときに家事や料理をがんばれました」

    そんな変化を柔軟に受け止めて、そのつど、自分を変化させられるのもすごいところ。

    現状をみて、いままでとちょっとやり方を変えてみる……。考え、修正し、新たな方法を思いつく。どうやら、坂井さんは、そんなプロセスを楽しんでいるよう。

    テレビや本で得た新しい情報も積極的に取り入れます。

    引き出しの整理整頓には100円ショップのブックエンドだって利用するし、買ってきた肉を保存するのに「50度洗い」をしてみたら、驚くほど臭みが取れておいしく保存できるように……。

    小さな幸せを見つければ「いつも」が楽しく

    「家仕事は、必ず目に見える結果が出ます。小さな達成感があるから、飽きることがありません。何かがちょっとよくなると、うれしい。その繰り返しが、日々の心の安定を生んでくれるのだと思います。自己満足でいいんです」

    坂井さんにとって、家事の段取りを考えることは、明日をよくするための仕組みづくりでした。

    それは、小さな幸せを生み出す手段でもあったよう。

    「ときには、うまくいかないことも、ああ、ダメだったなあ、と落ち込むこともあります。でもね、私はいつも “すべてよし” って思うようにしているの。過去のどんな嫌なことも、もしそれがなかったら、きっと “いま” はない。すべて起こったことには意味がある。そう考えると、身のまわりに起こっていることを、 “ああ、幸せだなあ” と感じられるはず。今日は料理の味つけがうまくいって幸せ、洗濯物がパリッと乾いて幸せ……。そんな小さな幸せを積み重ねていければいいですね」

    坂井さんの時間割

    05:30
    起床
    洗顔、身支度

    06:00
    洗濯物を取り込み、たたむ
    朝食の支度
    夜のメニューを考える

    07:00
    朝食(おにぎりとお味噌汁)
    片づけ
    ※生ごみの日は、この時間に冷蔵庫の中の整理

    08:00
    孫たちを送り出す

    08:10
    掃除
    夕食の支度(できるところまで)一品は必ずつくる
    ※毎朝の家事は9時ごろまでに終わらせる

    09:00
    その日ごとの用事(冷蔵庫や書類整理など)や常備菜づくりはこの時間に
    また、週に1~2回は、ふだんできない場所の整理をする
    ※することが終わっている日は、本を読んだり、書き物をしたり買い足しがあれば、買い物へ

    11:30
    昼食の準備(焼きおにぎりやサンドイッチなど常備菜とともに)、昼食

    13:30
    休憩時間。ソファでテレビ観賞などを

    15:00
    孫たち帰宅
    宿題を見たり、おやつを出したりしながら夕食の下ごしらえ

    17:00
    夕食準備

    18:30
    夕食

    19:30
    片づけ、ふきんを洗う
    入浴(洗濯機をまわしながら)
    ついでに、お風呂の掃除
    洗濯物をリビングに干す

    21:00
    自分の時間(友人への電話など)

    22:00
    就寝(23時になることも)





    〈撮影/ヨシダダイスケ 取材・文/一田憲子〉

    坂井より子(さかい・よりこ)
    1946年生まれ。神奈川・葉山市在住。自宅で料理教室を30年間、続けたあと、近年では、暮らしの知恵を交えた語りが好評を博し、若いお母さんたちのために、お話しの会を開催。著書に『暮らしをつむぐ』(技術評論社)など。

    ※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです



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