• 20年以上にわたって、草花の魅力を伝える活動を行う草の案内人・かわしまようこさん。自然に触れ、調和することで見つけた心地よく生きるヒントとスベリヒユを使ったレシピを教えていただきました。
    (『ありのまま生きる 雑草が教えてくれた、いのちがよろこぶ生き方』より)

    スベリヒユについて

    画像: スベリヒユについて

    スベリヒユ科
    花期=夏
    水気の少ない土地やアスファルトのすき間などに自生。世界中で食べられ、花粉症やアトピー性皮膚炎の緩和や抗うつ作用、記憶力アップなどの効果が期待される。シュウ酸を含むので、食べるときは茹でること。

    いつだって、新しい自分になれる

    画像: いつだって、新しい自分になれる

    食べられることがわかっていても、スッと手を伸ばせない草がある。畑や荒れ地に生える、スベリヒユがそれだった。

    わたしが暮らす沖縄では、野菜として売られていて、美味しいという噂も聞いている。健康志向のひとから脚光をあびている、オメガ3もはいっているというではないか。

    それなのに、どういうわけか、この草にかぎっては“食べたい”と思えない。地面にはりついたスベリヒュを見つけても、体は頑なに拒むのだ。

    そんなスベリヒユを初めて食べたのは、不定期で開催している雑草ごはん教室の最中だった。この教室は、身近なところに生える草を摘んで、料理をつくりながら、自然とともに生きる感覚を磨くという内容のものだ。

    スベリヒユを指差しながら、「食べたことはないのですが、美味しいそうですよ」と紹介すると、生徒さんたちの目がキラーンと光った。食べたことのない草はすすめられない、そう思ったけれど、一度わきあがった好奇心は、もはやとめられそうにない。

    生徒さん全員一致の「食べる!」という選択の末、わたしも意を決して、スベリヒユの肉厚の茎を摘んだ。小さな葉が落ちないように、ボウルにいれた水で丁寧に洗い、5センチほどの長さに切って油で炒めた。フライパンに転がったスベリヒユは、ジューッと音を立てながら縮んでいく。

    塩で味をつけた熱々のスベリヒユを味見する。すると、一同目をあわせて、笑顔になった。名前のとおりすべるような食惑。弾力のある歯ごたえ。わずかな酸味とぬめりがアクセントになって、いままで食べなかったことを悔やんでしまう美味しさ。お箸がとまらない!

    誰にだって、食わず嫌いはあると思うけれど、今回のスベリヒユとわたしの関係は、食わず嫌いとも少し違うように感じた。改めて、この草を“食べたい”と思えなかった理由について考えてみた。

    まず一つ、わたしの体の冷えに原因があるように思った。スベリヒユは、“馬歯箆(ばしけん)”という生薬名があり、薬になる。抗菌作用や利尿作用があり、中医学では、体を冷やす陰性の食材として扱われている。

    冷え症のわたしは、体を冷やす夏野菜や生ものを“食べたい”と思わないところがあり、もしかすると、この草の特性を、本能的に感じていたのかもしれない。

    もう一つの心あたりは、スベリヒユに似ているポーチュラカという園芸種だ。4歳くらいの頃、大切に育てていた。赤や黄色の花が咲いている鉢に、水をあげるのがたのしみだったわたしにとって、ポーチュラカは、あくまで眺めるための花。スベリヒユは、そのイメージと重なっていたのかもしれない。

    ところが、教室であの味を覚えて以来、地面にはりついたスベリヒユを見つけると、生唾ゴックン、スッと手が伸びてしまう。そう、じつは、わたしたちが、どんな感情になるか、どんな行動をするかは、どんな記憶があるかで変わってくるのだ。

    やりたいことをはじめる勇気がなかったり、自分に優しくできなかったり、なりたい自分になかなかなれないことがあるなら、そうなる原因になった過去の記憶をリニューアルすればいい。

    新しい記憶をつくれば、いつだって新しい自分になれる。そのことをスベリヒユの美味しさが教えてくれた。

    スベリヒユの味噌炒めのつくり方

    画像: スベリヒユの味噌炒めのつくり方

     スベリヒユを5センチに切り、玉葱と人参を細切りにする。

     フライパンにごま油を熱し、を炒め、塩と少量の水でといた味噌で味を調える。すりおろした生姜をあわせると美味しさアップ。

    <写真/大城亘>

    当記事は『ありのまま生きる 雑草が教えてくれた、いのちがよろこぶ生き方 』(Lingkaran books)からの抜粋です


    画像: 写真/北畑行博

    写真/北畑行博

    かわしまようこ
    1974年生まれ。2000年に「花だな」と思い、雑草にまつわる活動を開始。廃品に飾ったものやアスファルトの隙間から咲く雑草の写真をギャラリーで展示したり、雑誌などのメディアで草の魅力を紹介。2009年、東京より沖縄に住まいを移し、草を摘むことが健康的な生き方につながることを発見。自然のなかでこころと体と対話する宿泊型雑草教室を全国で開催している。2021年より雑草の力を生かしたプロダクト「REAL PLANTS」の販売をスタート。著書にかわしまよう子名義で、『草かざり』(ポプラ社)、『花よ花よ』(雷鳥社)、『ブータンが教えてくれたこと』(アノニマ・スタジオ)、かわしまようこ名義で、『草と暮らすーこころと体を調える雑草レシピ』(誠文堂新光社)など。この春、最新刊『ありのまま生きる 雑草が教えてくれた、いのちがよろこぶ生き方』(Lingkaran books)を刊行。


    『ありのまま生きる 雑草が教えてくれた、いのちがよろこぶ生き方』(かわしまようこ・著/Lingkaran books・刊)

    『ありのまま生きる 雑草が教えてくれた、いのちがよろこぶ生き方』(かわしまようこ・著/Lingkaran books・刊)

    『ありのまま生きる 雑草が教えてくれた、いのちがよろこぶ生き方』(かわしまようこ・著/Lingkaran books・刊)

    「ありのまま生きる」とは、「そのままでいい」と自分のことを受け入れること。 もともと自然の一部として存在している私たちヒトは、自然に触れ、調和することで、自然から心地よく生きるヒントや、“自分らしさ”を見つけるきっかけを得ることができると考えます。 いつも歩いている足元に生える26種の草の紹介や、草花の生きる姿勢に敬意を払いながら、草花を楽しむコツが書かれたエッセイ、摘んで応用できる料理レシピを1冊の本にまとめました。 コロナ禍における急激な環境変化にとまどったり、人との関係づくりの難しさに悩んだりなど、心やカラダのバランスを崩しがちな中、自分を大切にしながら、自分らしく生きたいひと、安心感とともに暮らしたいひとにおすすめいたします。



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