(『天然生活』2022年5月号掲載)
朝は、自分を空っぽにして新たな自分に出会う時間
口を閉じ、鼻からす〜っと息を吐いて、吐き切ったら自然にまかせてす〜っと吸う。平澤さんの朝は、そんな呼吸から始まります。
「空から糸でまっすぐ吊られているイメージで。丹田を意識しています。気持ちのいい光が上から降りてきて、それを胸いっぱいに吸い込んで味わって、全身で吐く。この繰り返しです」
集中して絵を描いていると、腰や肩が痛くなるもの。整体の先生に教えてもらい、体を整えるために始めたそうですが、いまでは、心を整えるために欠かせない大切な習慣なのだとか。
イラストレーターとして雑誌や広告、商品パッケージなどを手掛けてきた平澤さん。近年では、版画やドローイングで、いままでにない大きな絵を描くようになりました。馬や鹿などの伸びやかな動物、山や月や星の静かな風景……。見るだけで、物語が聞こえてくるような作品は、すぐに評判になりました。
「クライアントの要望に沿って描くイラストと違い、大きな絵は『何か』がないと成立しないんです。朝、白湯を飲んだり、呼吸を整えたり、愛犬ペッカと散歩に出かけて空や木々を見上げたり。それはすべて、その『何か』を見つけるため」と語ります。
絵の軸となる大切なものを受け取るためには、まず、自分のなかに詰まっているものを吐き出し、空っぽにしなければいけません。
「最近、できるだけ頭を使わない練習をしているんですよね。『いい絵を描いてやるぞ』なんて思ったら、作品がひとりよがりな落書きになってしまう。だれかのお宅に飾ってもらって、すっとその人の暮らしに溶け込んでほしい。だから私はなるべく空っぽになって、描きたいって思うんです」
昨年、軽井沢にある築50年という古いマンションを手に入れ、東京との二拠点生活を始めたばかり。窓からは、刻々と姿を変えていく木々がすぐそこに見え、鳥のさえずりが聞こえます。より、自然に近い環境に身を置きたくなったのも、いつもの自分を離れ、自然との会話をしたかったから。
目覚めるたびに、“さらっぴん”の自分に生まれ変わる……。平澤さんにとっての朝は、まだ知らぬ自分と出会う時間のようでした。
整える朝習慣 1
呼吸を整えて空っぽにする
起きたらまず、パジャマのままで仙骨を立てて座り、上からまっすぐ吊られているイメージで背筋を伸ばす。
丹田を意識しながら、鼻から息を吐き、吐き切ったところにまっさらな空気を入れる。心にひっかかっていることなど、すべて吐き出し、全身をクリアにするイメージで。
その日の体調や気分によって、30分ほど繰り返すこともあるし、忙しいときには5分間だけという日も。
整える朝習慣 2
起きたらすぐ夢日記をつける
鮮明な夢をよく見るという平澤さん。夢を知ると、現実とは別の場所にいる自分=無意識の自分を知るヒントになる、と夢日記をつけている。
朝目覚めてちょっとでも動くと、すぐに忘れてしまうので、枕の横にノートを置いておき、目覚めるとそっと体を起こして、すぐに夢の内容を書き留めておくそう。
美しい色彩の風景を見ることも多く、それらを作品に生かすことも。
整える朝習慣 3
ペッカと散歩する
ペッカと暮らし始めて7年目。朝は必ず散歩に出かける。
とくに軽井沢に来た日には、森の中を歩くだけで、冬は真っ白な雪景色を、春は木々が芽吹く気配を、夏は新緑を、秋はかさこそと鳴る落ち葉を踏んで……と季節の恵みを体いっぱいに感じることができる。
東京でも、近所の公園など、自然に近い場所へ。気持ちのよい日は1時間以上歩いたり、いつも散歩はお互いの気分次第。
整える朝習慣 4
掃除をして家を整える
ペッカの毛が抜けるので、毎日の掃除は欠かせない。
朝ごはんを食べ終わったら、部屋全体に「ダイソン」の掃除機をかける。床に塩をまいてふき掃除をすることも。部屋も心もさっぱりするそう。
「私は自宅が仕事場でもあるので、自分のいる空間をきれいにすることは、仕事に向かう前の心を整える作業でもあるんです」
整える朝習慣 5
窓を開けてセージを焚く
十数年前からフラワーレメディを学びはじめ、植物の力に興味をもつように。場を清めるといわれるセージを焚くのもその力を借りるため。
掃除が終わったら窓を全開にして、ドライセージの葉に火をつけ、煙が流れていく道をつくるのがポイント。
「日々いろいろな人に会い、いろんなものをインプットしてたまっていくので、不要なものを煙と一緒に出すようなイメージです」
余裕のある朝は……
心と体の声を聞いて
朝食の際、時間に余裕があるときにはオラクルカードを。息を大きく吐きながらカードを切り、心ひかれるカードを1枚引く。
そこに書いてある言葉が、その日の自分へのメッセージ。昨年は、写真家の砂原文さんが写真を、平澤さんが絵を描き、オリジナルのオラクルカードを制作したそう。
仕事に入る前には、両手を肩の高さに上げ、後ろに引きながら胸をそらし、肩甲骨を伸ばす運動を。
朝の時間割
07:00 | 起床 |
夢ノートをつける | |
呼吸を整える | |
07:30 | 白湯を飲む |
08:00 | ペッカの散歩 |
08:40 | 朝食 |
オラクルカードを引く | |
09:00 | 掃除、洗濯 |
10:00 | 体操して仕事に |
* * *
<撮影/安彦幸枝 取材・文/一田憲子>
平澤まりこ(ひらさわ・まりこ)
イラストレーター、版画家。セツ・モードセミナー卒業後、イラストレーターとしての仕事をスタート。広告や書籍、商品パッケージなどのイラストレーションを手掛けながら、近年は版画を中心に自身の作品づくりに力を入れている。陶芸など新しい素材や手法にも取り組み、表現の幅を広げる。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです