長く使い続けるために、少しずつ
穴あき、擦り切れ、虫食いに色褪せ…。
いっそ捨ててしまおうか、とあきらめる前にほんのちょっと手をかけてあげたい。
もちろん、世の中にはものがあふれています。直すよりも新しいものを購入する方が手間もなく、むしろ安価かもしれません。
最近『修理する権利 -使いつづける自由へ-』(青土社)という本を読みました。
たとえばスマホのバッテリーは、私たちには簡単に交換できない仕様になっているのはなぜなのでしょう。
著者は、スマホなどに代表される現代の工業製品が、あえて使い続けられない構造になっていると指摘します。
そうすることで消費者をスムーズに買い替えに誘導でき、利潤を生み続けることができるからです。
私自身これまで、家電の修理を依頼しようと問い合わせると「新品を買った方が安い」と断られ、釈然としない思いを何度もしてきました。
これは、私たちは一時の便利さや快適さと引き換えに、環境へ多大な負荷をかけているともいえると思います。
そんななか、現在欧米では「修理する権利」を主張する運動が起きています。
自分が持っているものを自分で修理してみる。使い続けられるように自分で工夫することは、そもそも万人が持つ当たり前の権利。
そして、「修理する権利」を取り戻すことは、私たちの本来の「生活」を取り戻すことでもあるのだと、その本は教えてくれました。

楕円形の当て布で両ひじ部分を繕ったカーディガン
たしかに自分で直すのって手間も時間もかかってめんどうだし、もしかしたら上手くいかないかもしれない。専門家に頼んだ方が、間違いなく美しく仕上がるかもしれません。
けれど、たとえつたなくとも手をかけただけ愛着は増し、自分の手でものの寿命を延ばすことができたという実感は、私たちのゆるぎない自信につながっていくような気がするのです。
簡単なことでもいい、穴一つだけでもふさぐことができたら、ほんのりうれしい。そしてまた、次もやってみたくなるはず。
少しでも多くの人が、その人のできる範囲で楽しみながら、「直す権利」を少しずつ取り戻していけたならいいな、と思います。
さて次回は「身近なものでできる手当て」のお話。 体のちょっとした不調を、台所にあるものでケアする小さなアイデアをお伝えします。お楽しみに!
〈写真・文/美濃羽まゆみ 構成/山形恭子〉

美濃羽まゆみ(みのわ・まゆみ)
服飾作家・手づくり暮らし研究家。京町家で夫、長女ゴン(2007年生まれ)、長男まめぴー(2013年生まれ)、猫2匹と暮らす。細身で肌が敏感な長女に合う服が見つからず、子ども服をつくりはじめたことが服飾作家としてのスタートに。
現在は洋服制作のほか、メディアへの出演、洋裁学校の講師、ブログやYouTubeでの発信、子どもたちの居場所「くらら庵」の運営参加など、多方面で活躍。著書に『「めんどう」を楽しむ衣食住のレシピノート』(主婦と生活社)amazonで見る 、『FU-KO basics. 感じのいい、大人服』(日本ヴォーグ社)amazonで見る など。
ブログ:https://fukohm.exblog.jp/
インスタグラム:@minowa_mayumi
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