ちぎれたエプロンのひも、そして迎えたクランクアップ
店の前で表紙の撮影。そして、せっかくだからとママ友たちみんなで集合写真。撮り終わったタイミングで、ちょうど雨が降り出した。ギリギリセーフ! 車椅子も急いで運び込まなければならないが、これが恐ろしく重い。
分解するか? 一旦車に乗せるか? というとき、取材に来ていた各局のカメラマン、ディレクター、書籍編集長など、居合わせた男性みんなで車椅子に手をかけた。掛け声を合わせて持ち上げ、無事に部屋の中へ。ここにいる人みんな仲間みたい。
料理撮影の合間をぬって、公園でポートレート撮影。料理撮影のような緊張感はなく、みんな「まさこさんを笑わせるぞ〜」と声掛けしまくって楽しかった。
途中、場所を移動しようとしたとき、突如まさこさんが車椅子に投げ飛ばされたようになった。え? 一瞬何が起こったのかわからなかったが、そばにいたみんなが慌ててまさこさんの身体を支えていた。
よく見ると、エプロンのひもがちぎれていた。電動車椅子のタイヤに巻き込まれていたらしい。さっきまでの笑顔が一瞬で消えた。きっと、異変に真っ先に気付いたのはまさこさん本人だったのではないだろうか。反射的に防御の姿勢をとることができない、それはすごく怖かったろう。
最後のカットを撮影し、慎重にピントや余計なものが写り込んでいないかチェックしたあと、みんなが耳を澄ませているのを感じながら「オッケーです!」と声をあげた。クランクアップ。拍手がわき起こった。ママ友たちは涙を流していた。私も思わず、目の前のまさこさんを抱きしめる。彼女の肩は思いのほか小さくて、壊さぬよう、そっと。
ねぎらいあったあとは、つくった料理をみんなで食べた。取材に来ていたテレビ局のスタッフさんたちも、おいしい、おいしい、と何度もいいながら。
撮影の帰り、高速道路を運転しながら、あのひもがちぎれたエプロンは修繕できないだろうかと思った。あのエプロンは、いつかまたキッチンに立つとき、なくてはならないから。


〈写真・文/繁延あづさ〉
繁延あづさ(しげのぶ・あづさ)
写真家。雑誌や広告などの撮影で活動中。ライフワークに出産撮影がある。2011年、長崎に移住。著書に『うまれるものがたり』(マイナビ)『山と獣と肉と皮』(亜紀書房)、『ニワトリと卵と、息子の思春期』(婦人之友社)、『鶏まみれ』(亜紀書房)など。雑誌『助産雑誌』(医学書院)表紙&巻頭を担当中。
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4才と12才の子の母であり、シェフのまさこさん。3年前、難病ALSだと診断を受けました。治療法が確立されていない進行性の病気です。
「子どもたちに”母の味”を残したい」
病と向き合う著者がそんな願いを胸に綴った、料理が好きな人や、家族を大切に思うすべての人に届けたい胸に深く響くエッセイ&レシピ集です。
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まさこさんのレシピやお店のこと、ALSとともに生きる日々については、こちらの記事でもご紹介しています。ぜひあわせてお読みください。
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▼天然生活web連載「難病ALSとともに生きる」
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