「おいしいはしあわせ」――家族の記憶と、息子さんからのプレゼント
撮影の翌週、まさこさんの家を訪問した。リビングのソファに座るまさこさんは、時折、妹さんに体勢を変えてもらっていた。ああ、こんなに頻繁に体勢を変えるのか。先日の撮影は相当にきつかったに違いないと、あの日気づけなかったことを省みた。
途中、訪問介護と医療機器の方がやってきて、人工的に咳と同じ現象を起こす機械が試された。そうか、筋力がなくなっていくとは、咳もできなくなるのか__。
特殊なマスクを装着したまさこさんの顔がギュッと吸引されたかと思うと、パッと離れた。まさこさんが目を丸くして笑う。その顔を見て、皆も大笑い。今後体が動かなくなっていく現実のため、先取って準備することは、悲しいことのようで、この先も皆でサポートし続けるという連帯にも思えた。
一方で、まさこさんはリハビリにも励む。いろんなことを試し、よさそうと感じるものを続けているという。治る、と希望を抱いているのがわかる。
「治ったら、繁延さんの養鶏場にも行ってみたい」隣で話していると、そんな現実もある気がしてきた。どちらの現実も、大切にされている。
妹さんが「お姉ちゃんは正義感が強くて、小さいころはいつも守ってもらってた」と話してくれた。それを聞いて、まさこさんがちょっと懐かしそうに笑う。もっと家族の話をと聞いていると「息子が小4のとき誕生日にくれた」と手づくりの冊子を見せてくれた。
『たからがままにつくってほしい食べ物図鑑』とかわいらしい字。“たから”は息子さんの名。ひらくと“目次”とあり、ショートケーキやベーコンエピなど料理名がずらり。中面にはつくり方がイラスト付きで。
すごい! これは手づくりのレシピ本。その息子さんはいま中学生。もう自分でできることも多い。そう考えたとき、今回のレシピ本はアンサーブックではないか、と思えてきた。
部屋の隅に「おいしいはしあわせ」と書かれた、まさこさんのメモが貼ってあった。きっと小さいころから、しあわせを家族や周りの人と味わってきた記憶があるのだろう。

〈写真・文/繁延あづさ〉
繁延あづさ(しげのぶ・あづさ)
写真家。雑誌や広告などの撮影で活動中。ライフワークに出産撮影がある。2011年、長崎に移住。著書に『うまれるものがたり』(マイナビ)『山と獣と肉と皮』(亜紀書房)、『ニワトリと卵と、息子の思春期』(婦人之友社)、『鶏まみれ』(亜紀書房)など。雑誌『助産雑誌』(医学書院)表紙&巻頭を担当中。
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4才と12才の子の母であり、シェフのまさこさん。3年前、難病ALSだと診断を受けました。治療法が確立されていない進行性の病気です。
「子どもたちに”母の味”を残したい」
病と向き合う著者がそんな願いを胸に綴った、料理が好きな人や、家族を大切に思うすべての人に届けたい胸に深く響くエッセイ&レシピ集です。
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まさこさんのレシピやお店のこと、ALSとともに生きる日々については、こちらの記事でもご紹介しています。ぜひあわせてお読みください。
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▼天然生活web連載「難病ALSとともに生きる」
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