写真について:たっぷりの水と砂糖をふくんだあんこは、ふっくらつやつや。あんこのおいしさを感じられるように、シンプルなアレンジで楽しんで
(『天然生活』2015年3月号掲載)
ふっくらつやつや炊けますように
焼き菓子の名手・なかしましほさんが実は「あんこに目がない」ということを知ったとき、少し意外に思いました。
なかしまさんのお菓子といえば、粉の味が響くクッキー、ふわふわのシフォンケーキ、ごはんのようにむしゃむしゃ食べられる軽いスコーン……。そんなイメージが強かったからです。なのに、あんこ。なんでも、家で洋菓子はほとんどつくらず、繰り返しつくるのはあんこなのだといいます。
「私がつくるたいていのお菓子は、材料がシンプル。粉と砂糖と菜種油だけの体にやさしいおやつです。ひと口、口に入れれば何が入っているお菓子かすぐわかるのがいいなーと思って。あんこは、そんなところが似ています」
たしかに、あんこの材料はすこぶるシンプル。小豆と砂糖、ただそれだけ。こんなに用意するものが少ないおやつは、古今東西どこを探してもないかもしれません。
それだからこそ、あんこ炊きは、ひと筋縄ではいきません。バターでコクを出すことも、チョコレートで風味を加えることも、果物で見栄えをよくすることもできず、ごまかしが利かないからです。
「少ない材料、少ない工程のお菓子のほうが、やればやるほど難しくて奥が深い。でも、その深さがまた楽しいんですけどね」
小豆の種類や若さ、火加減、水の量、かき混ぜ方、ちょっとしたことが仕上がりに影響し、味は変わってくるといいます。
夜に下煮をしておいて、寝ている間にじっくり蒸らす
繰り返しつくってたどり着いたという、なかしまさん自慢のあんこ。その味は、豆のほくほくした風味を感じる、しっかり甘いあんこでした。
「最近は、甘くないお菓子が求められがちですが、あんこの場合、砂糖は減らさないほうがいいと思うんです。砂糖が少ないと、せっかくのあんこの味がぼんやりしてしまいそうで……」
小豆を煮ている段階で出るあくも、あんまり取りすぎないのが、なかしまさん流。
「取りすぎると、お豆のおいしいうま味も逃げてしまいますからね」
あんこ炊きで重要なのは、砂糖を投入し、小豆に甘味をふくませるタイミング。まだ小豆がしっかり煮えていないうちに甘味を入れてしまうと、そのあと、どんなに火を入れても、小豆は、もう二度とやわらかくはなりません。だから、小豆がいい加減に煮立ったのを確認してから、しっかりと蒸らし、無理なく豆にゆっくりと水を吸わせる。それから甘味を加えることで、ふっくらやわらかなあんこが炊けるのだと、なかしまさん。
「だから、あんこを炊くのに、夜はちょうどいいですね」
夜にしっかりと下煮をしたら、ふたをしてひと晩おいて、じっくり蒸らす。朝、起きたら砂糖を入れて、仕上げればいいのです。
ちょっとした火加減や煮る時間などがものをいうあんこ炊きですから、夕飯の支度をしながら、掃除の合間に……なんていう「ながら調理」は難しい。だから、一日の家事がひと段落して、時間と気持ちに余裕のある夜のひと時は、あんこ炊きに向いているともいいます。
「ずっとつきっきりでいる必要はないんです。でも、気持ちをすっかりよそに放してしまわないように気をつけないと、みずみずしいあんこにはなりません」
あんこを炊く夜は、台所の隣のリビングのソファで本を読みながら、台所でふつふつと煮立つ鍋にも気持ちを配るなかしまさん。冬の夜のやさしい時間です。
「米粉のシフォンサンド」のつくり方|あんこを使ったお菓子のレシピ/なかしましほさんへ⇒
「あんこのスコーン」のつくり方|あんこを使ったお菓子のレシピ/なかしましほさんへ⇒
「白玉クリームあんみつ」のつくり方|あんこを使ったお菓子のレシピ/なかしましほさんへ⇒
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<料理・スタイリング/なかしましほ 撮影/有賀 傑 構成・文/鈴木麻子(fika)>
なかしま・しほ
新潟県生まれ。音楽、出版の仕事を経て料理の道へ。2006年「foodmood(フードムード)」の名でお菓子工房をスタートする。素朴でやさしい味のお菓子が人気。著書に『たのしいあんこの本』(主婦と生活社)など。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです