(『ありのまま生きる 雑草が教えてくれた、いのちがよろこぶ生き方』より)
アカツメクサについて
マメ科
花期=春~夏
牧草として輸入され、北海道から九州に分布。日あたりのよい空き地や河原などに咲き、高さ30~60センチほどに伸びる。ヨーロッパでは更年期症状を抑えるメディカルフラワーとして扱われる。
ここで、わたしらしい花を咲かせよう
沖縄本島に初めて降り立ったのは、10代のとき。当時は熊本に住んでいて、そのあと宮崎、東京と引っ越しをしても、住んでいるところから40回以上通ってきた。
行きたくて飛行機に飛び乗ったこともあれば、思わぬところでご縁があり、足を運んだこともあったような。初めて降り立ってから約20年後、沖縄に住むなんて、夢にも思わなかった。
20年の間に、沖縄は変化した。待ちあわせ場所を決めなくても会えそうなくらい小さな空港が、国際線も発着するほどに発展。時間に余裕がなければ、目指すところまで猛ダッシュすることになるほど、いまでは広々とした建物になった。
新しい交通手段として、空港からモノレールが開通した。道路を広げる工事は年々進み、そのたびに沖縄らしい古い建物は壊され、高層マンションやビルが建ち並ぶようになった。
すると、地元のおじぃやおばあが、こんな言薬を呟いているのを耳にするようになった。
「三角屋根のカッコイイ家を建てようかねぇ」
「トイレは、ウォシュレットじゃないけど、大丈夫ねぇ?」
「うちの家の瓦には、苔が生えてて恥ずかしいさぁ」
昔ながらの風景に、こころを和ませてもらっていたわたしは、沖縄らしい暮らしに引け目を感じるような言葉を聞くと寂しくなる。おじいやおばぁは、本当にそう思っているのだろうか? まわりのひとにあわせたり、新しくできた、ビルやマンションと暮らしぶりを比べたりして、そう思っていないかな?
沖縄の風景が、ガラリと変わるのは時間の問題と思った。風景が変わると、そこで暮らすひとのこころのあり方まで変わるようだ。
沖縄に来ると、血の繋がりも何もない他人に、家族のように向きあってもらうことが何度もあった。そのたびに、涙を流したり、元気をもらったり、人間らしい生き方を思いださせてもらった。
自然もひとも、おおらかで優しい。「このままでいいんだ」と思わせてくれる、懐の深さにホッとした。通えば通うほど、沖縄のことを大切に思うようになった。
あるとき、大きなクレーンが空に飛びだし、東京のど真ん中にあるような立派なマンションの建設風景を見た。そのとき、沖縄に少し、住ませてもらいたいと思った。少し住んだくらいで、どうにかできるものではないけれど、沖縄のためにできることを、暮らしながら考えたいと思ったのだ。そうして、2009年の春、昔ながらの町並みが残る、首里城のほど近くに引っ越した。
沖縄には、他の県にはない祈りの文化が色濃く根づいていて、連綿と受け継がれてきた伝統行事もある。実際に暮らしてみると、地元の方がこころよく受けいれてくださっても、他県で生まれたわたしには、到底はいることのできない領域があるように感じた。
足もとに咲く草のほとんどは、外米種。ああ、わたしは、彼らと同じなんだなぁと思った。もともとの原産地は、海を越えた遠いところにあって、いろんな経路をたどって日本に着いたものばかり。外米種はどうやっても、在米種になれない。
春から夏にかけて、気持ちのいい季節になると、シロツメクサが咲く。暖かい沖縄では1年をとおして咲いていて馴染みのある草だが、シロツメクサが日本に上陸したのは、江戸時代。ヨーロッパからガラス製品を輸入したとき、クッション材として箱に詰められていて、それが白い花が咲かせたので、“白詰草”と呼ばれるようになった。
シロツメクサと同じマメ科で、桃色の花を咲かす、アカツメクサがある。原産地のヨーロッパではメディカルフラワーとして扱われ、花の蜜を吸うとほのかに甘い。
わたしはこの草が大好きで、いつか沖縄で出会うことをたのしみにしているのだが、種がまだ上陸していないのか、一度も見かけたことがない。
1、2年ほどでもともと暮らしていた東京に戻るつもりが、戻るに戻れない事情が重なり、沖縄に住んで10年がすぎた。
いまはこの島から離れる気持ちはなくなり、沖縄の草を摘みながら、たのしい日々を過ごしている。原っぱを眺めていると、いろんな場所で生まれた草花が、それぞれに咲いて、美しい風景をつくっているなぁと思う。
アカツメクサも沖縄で花を咲かせたら、シロツメクサと同じ、外来種だ。でも、外来種も、在来種も、その場所が好きだから根っこをおろしている。
沖縄で何かできることを探したいと思ったのは、この島を大切に思う気持ちがあったからだ。この島が好きで、ここで暮らしたいと思った。
そこかしこに咲く草たちを見ていたら、それでいいんだなぁと思えた。わたしもここで自分らしい花を咲かせ、美しい風景をつくつていきたい。
アカツメクサの甘酢漬けのつくり方
1 生姜を薄く切り、塩で揉んで10分ほどおき、水気をしぼる。
2 鍋に酢、甜菜糖、塩少々をいれて沸騰させ、火をとめて1を混ぜる。
3 アカツメクサの花をむしり、2に混ぜる。
<写真/萬田康文>
当記事は『ありのまま生きる 雑草が教えてくれた、いのちがよろこぶ生き方 』(Lingkaran books)からの抜粋です
かわしまようこ
1974年生まれ。2000年に「花だな」と思い、雑草にまつわる活動を開始。廃品に飾ったものやアスファルトの隙間から咲く雑草の写真をギャラリーで展示したり、雑誌などのメディアで草の魅力を紹介。2009年、東京より沖縄に住まいを移し、草を摘むことが健康的な生き方につながることを発見。自然のなかでこころと体と対話する宿泊型雑草教室を全国で開催している。2021年より雑草の力を生かしたプロダクト「REAL PLANTS」の販売をスタート。著書にかわしまよう子名義で、『草かざり』(ポプラ社)、『花よ花よ』(雷鳥社)、『ブータンが教えてくれたこと』(アノニマ・スタジオ)、かわしまようこ名義で、『草と暮らすーこころと体を調える雑草レシピ』(誠文堂新光社)など。この春、最新刊『ありのまま生きる 雑草が教えてくれた、いのちがよろこぶ生き方』(Lingkaran books)を刊行。
「ありのまま生きる」とは、「そのままでいい」と自分のことを受け入れること。 もともと自然の一部として存在している私たちヒトは、自然に触れ、調和することで、自然から心地よく生きるヒントや、“自分らしさ”を見つけるきっかけを得ることができると考えます。 いつも歩いている足元に生える26種の草の紹介や、草花の生きる姿勢に敬意を払いながら、草花を楽しむコツが書かれたエッセイ、摘んで応用できる料理レシピを1冊の本にまとめました。 コロナ禍における急激な環境変化にとまどったり、人との関係づくりの難しさに悩んだりなど、心やカラダのバランスを崩しがちな中、自分を大切にしながら、自分らしく生きたいひと、安心感とともに暮らしたいひとにおすすめいたします。