(『天然生活』2022年2月号掲載)
道具と長くつきあうには「素材の弱点を知ること」
台所の道具は気に入ったものを、できるだけ長く使いたい。けれど、上質な天然素材となると手入れが大変そう……。
「大丈夫。木、鉄、土といった素材ごとに基本を押さえておけば、それほど難しいことはありません」と日野明子さん。
“ひとり問屋”として全国のつくり手との交流も深い、いわば道具のプロである日野さんは、どんなふうに台所道具とつきあっていますか?
「10年以上使い続けているものもたくさんあります。天然素材のいいところは、なんといっても料理がおいしくできること。たとえば、土鍋で炊いたごはんを食べて味の違いに驚いた人もいるのではないでしょうか。おいしいごはんのためなら、道具の手入れもがんばろうと思えますよね」
それに、道具を慈しみつつ手入れすること自体が楽しいといいます。包丁を研いだり、ガラスの器をピカピカに磨き上げたりすることで気分が晴れるのだとか。
まずは、基本を身につけなければ。日野さんがつくり手から直接教わり、使い手としての経験から得た結論は「素材の弱点を知ること」。
酸あるいはアルカリに弱い、温度変化に弱い、湿気が大敵といったポイントを押さえておくといいのだそう。そこには化学的な理由があるので、一度覚えてしまえば個別の製品ごとに大きな違いはなく、あまり悩まずに手入れも習慣化できるはず。
もうひとつ、道具と長くつきあうには、変化を楽しむ気持ちも大切だと日野さん。
「手入れの目的は、新品同様にきれいな状態をキープすることではありません。土鍋なら使い始めてすぐにひびが入りますし、急須にはお茶の成分が染みていきます。一方、漆は使うほどにつやが出てくるなど、変化のありようもさまざま。長く大事につきあえば、どんな道具も新品のときよりもいい状態になります。道具を育てる楽しみを知ってもらえたら」
ちょっと錆びたり、欠けたりすることがあっても、ダメにしてしまったと諦めないことが肝心。お手当てすることで長く使えるのが、天然素材の頼もしさです。ものを使い捨てにしないのはもちろん、素材によっては洗剤を使わずにお湯洗いできるので、環境への負荷を減らせるという面も。
「取扱説明書が付いているものはそれに従うのが一番なので、必ず読みましょうね。困ったときはここで紹介する素材ごとのお手入れ法を参考に。また、プロにお直しを頼むこともあると思います。遠方に送るのはひと手間なので、身近な道具はできるだけ近所のお店で買うことをおすすめします」
実は間違っているかも!? のお手入れQ&A
なんでも同じように洗えばいいってものではありません。疑うことなく続けていた習慣を見直してみましょう。
Q すべて洗剤が必要?
A ものによって使い分けて。
洗剤を使わずに洗ったほうがいいものは意外と多いそう。
「鉄の鍋やフライパンは、むしろ油分を残したいので洗剤で洗うと落としすぎてしまうことに。炊飯用の土鍋や、おひつもお湯洗いで十分。せいろにいたっては、洗う必要もないといわれています」
Q ステンレスは錆びない?
A 原料に鉄が入っているので、錆びることも。
鉄と比べて錆びにくいとはいえ、絶対に錆びないわけではありません。
「錆の原因になる塩分や水分がついたままにしておくのは避けます。鉄と重ねて置いておくと“もらい錆”をすることもあります」
ステンレスも鋼も、よく洗ってふくという基本は同じです。
Q 洗う道具はスポンジがあればOK?
A まな板などにはたわしがベスト。
「まな板、おひつなどこすり洗いするものにはたわしが最適です」
日野さんはスポンジの劣化が嫌いで、もっぱら使うのはたわしと布ふきん。スポンジは生乾きだと雑菌が繁殖しやすいので、使用後は洗って水を切り、1日1回は完全に乾かすこと。
Q 使ったら熱いうちに洗うべき?
A 急に冷たい水で洗うと割れるものに注意。
「調理後、熱いうちに洗うと汚れ落ちがいいという面はありますが、急な温度変化に弱い素材の場合は、いきなり水につけてはいけません」
土鍋、ホウロウ、鉄、テフロン加工などがその代表。これらを使った直後は冷水ではなく、お湯で汚れを浮かせます。
Q トラブルには重曹?
A 変色の原因になることも。
「重曹はアルカリ性。たとえば杉のおひつや弁当箱に使うと、木が黒ずんでしまいます。もしそうなってしまったらクエン酸で洗ってアルカリを中和するといいですよ」
また、粒状なのでガラス、漆など、傷つきやすいものを磨くのも避けましょう。
日野さん愛用の洗う道具とふく道具
ほとんどの器や道具を天然素材のたわしと布ふきんで洗うそう。
「握っても痛くないくらいの硬さなら、ホウロウの器を洗っても傷がつきません。シュロのたわしは柔らかく、コシがあるので使いやすいです」
ほかに、リネンのバスミトンで食器を洗うことも。
[洗う道具]
■高田耕造商店のたわし
右は使い込んで端の毛が平らになったもの。「使いやすいので捨てられなくて」
■朝光テープのびわこふきん
洗剤を使わずにお湯だけで洗える目の粗いふきん。油汚れもよく落ちる。
[ふく道具]
■百草の綿タオル
乾きが早く、柔らかいガーゼ素材。陶器、漆器、道具類など全般に使える。
■テイジンのミクロスター
メガネふきと同じ細かい繊維のクロス。グラスを磨くときにはこれを使用。
<監修/日野明子 撮影/山川修一 取材・文/黒澤 彩 イラスト/はまだなぎさ>
日野明子(ひの・あきこ)
スタジオ木瓜代表。つくり手と使い手をつなぐ「ひとり問屋」業のほか、手仕事の道具や器のイベント企画にも携わる。『うつわの手帖』シリーズなど、著書多数。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです